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「さて、津倉さんの話を最初にしたのには、事情があります。
まず一つは、深刻度が低いこと。
その二は、これから話す内容に、少しばかり引っかかること。
次の話は、鐵本さんの話です。
鐵本さんが彼を呼ぼうと考えたのも、津倉さんと同様、自分の話を学校内に広めたいが為でした。
しかし二人の違いは、悪意の有無でした。
津倉さんは飽くまでも、愛しい娘の為にできることを考えて、行ったに過ぎません。
しかし、鐵本さんは悪意を持って、彼を利用しようと企んだ」
「失礼な人だな。
なにを根拠にそんな戯言をいうのです?」
隼人は口元で笑って見せた。余裕の表情で。
「貴方の話は嘘ばかりでした。
四十代の独身教授。それだけで通じる人物がI高校にはひとりだけおります。しかしその方は、婦人との噂など一つもなく、向学心に満ちた、立派な方です。
一方妹さんも、真面目でしっかりとした婦人です。
事実、妹さんは教授の元でタイピストとして働いておりましたが、専ら仕事は自宅で行っており、二人が会うのは、高校近くのカフェで、資料の受け渡し程度の関わりでした」
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