雨音が憎い

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 ……たっくん?僕がその呼び方で呼ばれたのは、幼稚園の時だけ。 「今死んだら、私が何者か分からないまま、未練を残して死ぬことになるよ。シュレディンガーの猫ってやつだね」 「……誰ですか」  僕は柵にかけていた手を除けて、彼女に話しかける。雨音がうるさい。 「私の事を知りたいなら、約束して。自殺しないって。約束出来たら、私の部屋に招待してあげる」 「……僕は、自殺の思いすら貫き通せないのか」  自分の不甲斐なさに泣きそうになるが、隣の声の正体が知りたいのも事実だ。とりあえず頷いたフリをして、彼女の正体を知ってから死んでも遅くはない。そう思った。  靴を履いて、外に出る。重い金属製のドアが目の前にある。 「入って」 「……お邪魔します」  その時に表札を見てピンと来なかったのを、僕はとても驚くことになる。 「……久しぶりだね」 「……ちーちゃん、なのか?」  幼稚園で一緒のグループだったちーちゃんが、そこに居た。
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