雨の恍惚

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 夕暮れ時、雨がざあざあと降りしきる中、中学校から帰宅した僕は傘も差さず家の風呂場の外で息をひそめて立っている。  家の庭は草木がぼうぼうと生えていて目隠しになっているので路地から見られることはない。ましてこの雨ならなおさらだ。  梅雨時のカビの臭いがどこからか臭ってくる不快さと雨で中学校のジャージが濡れて体に張り付く不快さが僕に与える影響は全く無く、そんな悪条件も苦にならないほど湧き出る衝動を抑えきれずここに来てしまった。  前もって開錠していた風呂場の窓を数ミリ開けて、ゆっくりと風呂場を覗き込むと、シャワーを浴びている果夏さんが見えた。果夏さんの乳房は想像していたものより大きかった。  僕の意に反して喉がゴクリと鳴る。雨音にかき消されてくれと願う。自分には喉の鳴る音がとてつもなく大きな音として脳内を反響しているから、唾を飲み込む度に果夏さんにばれてしまうのではないだろうかとドキドキしていた。  でも果夏さんは僕に気づくことなくシャワーを浴びている。  普段の果夏さんは、大人しくて清純なイメージだ。けれど、衣服を纏っていない裸の果夏さんは男を知っている淫靡な女にしか見えなかった。そしてそのギャップが僕の欲望をより掻き立てその場を離れさせないようにした。  果夏さんの乳房や首筋、細い腕、色白の肌、彼女のありとあらゆるものに目を奪われて夢中になって見ていた。シャワーを浴びる果夏さんを見て、僕と果夏さんが裸で抱き合うことを想像したりもした。  そのとき、彼女と目があったような気がした。  瞬間に僕は窓から体全体をのけぞらせ、それから数秒経ったのちにもう一度恐る恐る元の位置に戻って中を覗いてみた。  すると果夏さんは何事も無かったようにまたシャワーを浴びていた。だが少し口元が動いているような気がした。 「見たいのなら見てもいいですよ」  僕より5歳年上の彼女はなぜか僕に敬語で話すのだが、そう言っているようだった。確信は持てなかったが、その後の彼女の声は鮮明に聞こえた。 「私の体が見たいのなら見てもいいですよ。私はもう少しシャワーを浴びていますから」  僕はまた窓から体をのけぞらせ、しゃがみ込んで息をひそめた。彼女はどうしてこんなことを言うのだろう。  中学生なんて二十歳の女性から見たらまだ子供だろうけど裸を見てもいいなんて言うのだろうか。血の繋がりはないけれど父の再婚相手で身内だからだろうか。  僕はなぜかもう一度風呂場を覗き込んで、彼女の身体を見た。  彼女の脚元、腰、乳房、首筋、そして顔。  呼吸が荒くなっていた彼女は恍惚の表情で僕を見ていた。
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