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月曜日の午前九時過ぎ。拓也のマンション近くにあるレンタカーショップで待ち合わせて、話し合いの末、セダンを借りることにした。
「行きは俺が運転する。帰りはよろしく」
拓也を助手席に追いやり、裕斗は運転席でシートの高さを調整する。
「本当に大丈夫か。セダンは乗り慣れてないだろ」
「まあいつもはコンパクトカーだけど。毎日セダンに乗ってた時期はあるから」
「いつ頃?」
拓也が意外そうに聞いてくる。
「『WIND』で店長やってた頃。買い付けとか取引先訪問で、ほとんど毎日外に出てた。高井さんの車で」
「へえ……店長やってたのか」
「あ、友斗に聞いてなかった? 高校出てすぐにフツーに働いてたんだ」
いったん話を切って、シートベルトを装着し、 サイドミラー、ルームミラーの位置を調節した。出発の準備はできた。エンジンを入れて右にウィンカーを出す。
今日は晴れていて視界がクリアだ。絶好のドライブ日和。
澄んだ水色の空には、輪郭のしっかりした綿雲が浮かんでいる。
少し開けた窓からは、程よい風が入ってくる。
カーナビは拓也が設定してくれた。ETCカードも準備してくれている。
じわじわアクセルを踏み込みながら、指定速度40㎞の車道から、制限なしのゾーンに移る。
「なんか余裕の走りだな。海までナビなしで行けたりする?」
拓也が感心したように言うので、裕斗の顔は緩んだ。
「海の近くの染色工場まで何回も行ったことがあるから」
TOKYOファッションコンテストに挑む際、使う素材の色染めを、その工場に依頼した。個人客の注文は受けないと一回断られたが、どうしてもとお願いして染色を請け負ってもらった。
「海は久しぶりだな。楽しみ」
隣の拓也に笑いかけ、すぐに前を見る。運転は好きだが、集中と注意は欠かせないから、やはり疲れる。
ラジオの音楽番組をかけ、二人はポツポツと話をする。
「道が空いててラッキーだな。裕斗の運転が上手いから眠くなる」
拓也が無防備に欠伸をした。伸びまでする。
「眠いなら寝てて良いよ。着いたら起こすし」
高速を入れて一時間半ほどで海に着く。良い仮眠になるだろう。
「じゃあ……実は昨日、夜中まで論文書いてたんだ。明日締め切りのやつ」
「ギリギリじゃん」
笑いながら拓也を見ると、すでに彼は目を閉じていた。
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