41

3/3
前へ
/67ページ
次へ
 レジャーシートの上でまったりしたり、眠ったりしていたら、いつの間にか十六時になっていた。砂にまみれた足を海の波で洗い流してから、裕斗たちは帰り支度をした。  コインパーキングに止めていた車に、二人は乗り込んだ。約束通り帰りは拓也の運転だ。 「あっという間だったな」  運転席でシートの位置を変えながら拓也がいった。 「ほんと」  裕斗は同意して、シートベルトを締めた。  幸いなことに帰りの道も空いていて、拓也の住むW町まで最短時間で辿り着くことができた。もうすぐレンタカーショップに着く、というところで、「そういえば」と拓也が話しだした。 「俺が運転してるとき、手を繋ぎたがる子がいたな。助手席で。危ないから断ったけど」 「その子の気持ちは分かるな。せっかく近くにいるのに触れないとか。もどかしい」  運転している拓也は普段より二割増しで格好良く見えるし、距離が近いとやっぱり、触りたくなる。好きなら。 「俺も行きのときはそう思ってた」  急に真顔になって、拓也が裕斗を見てくる。 「寝てたくせに」  顔を窓側に向けて、俯く。拓也の科白に、不覚にもドキドキしてしまった。それに、自分もかなり恥ずかしい事を口にしていた。猛烈に恥ずかしい。  車が変な動きをしている、と気がついたのはそれから五秒後だ。  拓也が左にウィンカーを出して、路肩に車を止めた。ハザードランプを点けて、サイドブレーキをかけた。 何か問題でもあるのだろうか。このまま真っすぐ進めば、目的地に着くのに。 「拓也、どうかし――」  途中で声を遮られた。拓也の唇によって。  触れるだけのキスは二秒で終わった。すぐに舌が入ってきて、裕斗の口内をかき混ぜてくる。  反射的にドン、と拓也の胸を拳で叩いた。すると呆気なく、唇が離れていく。  一応拓也なりに、TPOはわきまえているようだ。 「ここで下りる」  裕斗は控えめにドアを開けた。 「寄っていけよ。俺の部屋」  その声は強くなかった。ダメ元で言っていると分かる。 「やだよ」  即答する。即答しないとついていきそうだから。  離れ難い。本当は。
/67ページ

最初のコメントを投稿しよう!

761人が本棚に入れています
本棚に追加