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翌日。月曜日の朝。
拓也の「行ってくるよ」で目が覚めた。
「――どこに?」
裕斗は寝ぼけ眼でベッドから起き上がった。と同時に軽く呻いた。下半身が酷く怠い。昨晩、拓也を受け入れた場所にも疼痛がある。
「大学だけど。帰りは夕方になる」
ベッド脇に立っている拓也が、裕斗の耳たぶを甘噛みしてくる。
「こっちはピアスホールないんだな。開けないの?」
「開けない。右だけ」
欠伸をしながら答える。
「朝ごはん作ってるよ。そろそろ行くな」
「ありがとう。行ってらっしゃい」
名残惜しそうに裕斗の頭を撫でたあと、拓也が寝室を出て行く。二十秒数えたあたりで、玄関の戸締りの音が聞こえてきた。
「ええっと……」
裕斗は昨晩の出来事を回想し、頭の中を整理する。
三茶のホテルを出たのが二十一時過ぎ。タクシーで拓也の部屋に連れて来られ、彼が作ってくれた夕飯を食べて、またセックスした。へとへとになりながらも一緒に風呂に入って、髪を乾かし合って、ベッドに潜り込んだ。そして今、こうなっている。
サイドテーブルにあるデジタル置時計は、九時半を示している。
「あちーな」
何もしなくても額に汗が浮いている。拓也から借りた半袖Tシャツは薄手なのに、暑い。
梅雨が明けたのだろう。
じゃあ切るか。裕斗は伸びた髪をかき上げ、ベッドから下りた。
リビングに行くと、テーブルにカードキーが置かれているのを確認する。あと、走り書きのメモも。
『合鍵あげる。夕飯作って待ってて』
――図々しくない?
そう思いながらも、裕斗の口角は上がっていた。
いったん自分のアパートに戻った。洗面所の前でバリカンを使って髪を刈り、スッキリした頭で服作りとフランス語の勉強をした。十六時に電車で早稲田駅まで移動し、近くのスーパーで夕飯の食材を買って、拓也の部屋に向かった。
献立は迷わなかった。よく作る料理にしようと思った。失敗しないように。
十八時二十分に、拓也が帰って来た。キッチンで裕斗の姿を見た瞬間、「なんだその頭」と目を丸くした。
「昨日褒めたばっかじゃん。なのに坊主にするか?」
「暑かったから」
ちょっと不満そうな顔で、裕斗の頭をガシガシ擦ってくる。
「触り心地は良いな」
「気に入ってよ、これも」
「もう気に入ってる。裕斗なら何でもいい」
すりすりと短髪に頬ずりして、ぎゅっと抱きしめてくる。
抱きしめ返し、「夕飯にしよう」と呟いた裕斗の唇は塞がれる。
今日は夏野菜を沢山使ったカレーにしたよ、と伝えられたのは、ベッドで一回セックスし終わってからだった。
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