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客室に入ったとたん、後ろに立っていた拓也に頭を掴まれた。強引に顔の向きを変えられ、キスされ、壁に体を押し付けられる。
――ちょっと、狂暴すぎ。
口中に侵入してくる舌に応じながら、裕斗は拓也の首に腕を巻き付ける。
二人は一年ぶりの口づけを満足するまで続けたあと、急いで服を脱いだ。お互いのものはキスだけで硬く勃起していた。
「裕斗」
欲望むき出しの声で呼ばれ、体が震えた。
首筋を舐め上げられて呼吸が乱れる。彼の舌が鎖骨、胸の尖りへと移動した。昂った性器は手で包まれ、激しく上下に扱かれ、裕斗は無意識に右の耳たぶを触っていた。そして「あ、あ」と細切れの声を放って呆気なく達してしまった。
両脚から力が抜けそうになる。そんな裕斗の腰を拓也が両手で掴んで、ひょいと持ち上げた。そのままベッドまで移動する。
「あ、シャワー」
「無理」
裕斗の言葉は遮られ却下される。
「両脚広げて」
切羽詰まった声で指示されて、裕斗は興奮しながらその通りにする。
心とは裏腹に、裕斗の蕾はまだ、慎ましく閉じていた。一年間性交に使っていないし、自分でそこを慰めたこともなかったのだ。
ローションで濡らした指が蕾に触れたときは、ビクッと体が揺れてしまった。
その反応が嬉しかったのか、拓也の余裕のなかった顔に笑みが浮かんだ。
そっと様子を窺うように、指が一本、後孔に侵入してくる。そろそろと、裕斗の感じる場所に近付いて、撫でるだけの刺激を与えてくる。
「ふ……あ、あ」
優しすぎる愛撫だった。一本だけでも圧迫感があって苦しいのに、拓也のものが欲しくて堪らなくなる。
「早く入れろよ」
「もっと慣らさないと。傷つけたくない」
でも苦しそうな声を出している。
二本、三本と、徐々に指を増やされていき、ようやく受け入れる態勢ができたのは、ベッドに移動してから三十分は経った頃だ。
「入れるよ」
拓也が十分に満ちたものにゴムを着けて、綻んだ蕾に押し当ててくる。先端でこじ開けて、ゆっくりと刀身を進めてくる。
「ん――ん、あ」
ぐちゅ、と滑った音を立てて、拓也のすべてが裕斗のなかに収められた。圧迫感が凄い。苦しい。でも、それを凌駕するほど、激しい快感が押し寄せてくる。一度達した性器が完全に勃起し、先走りの雫まで垂れてしまう。耳たぶにある黒真珠を親指で押した。
「あ、たくや」
「ひろと」
名前を呼び合った刹那、裕斗はまた絶頂に達していた。拓也が追いかけるように、痙攣している内部に留まったまま精を放った。
その後、いくら一年ぶりでもここまでやるか? と突っ込みを入れたくなるほどセックスした。
二人ともへとへとになりながら浴室に入った。体液まみれになった体を洗い合い、バスタブにお湯を張って一緒に入る。
「いま何時だろ」
後ろから抱きしめてくる拓也に聞いてみる。
「さあ、知らない。初めから泊りにしてるからどうでも良い」
「あ、なら良かった」
一泊できるのは嬉しい。時差ボケの上に、ノンストップで長時間セックスしたのだ。お風呂から上がったら今すぐ寝てしまいたい。ただ、明日の朝に『WIND』に行ったら、絶対高井に冷やかされるだろうと思った。
「裕斗は――一年で帰ってきて良かったのか?」
少し心配するような声で、拓也が問うてくる。
「ん……そうだね、一年学校で勉強して、充分満足できたんだ。俺、学校の講師のコネで、小さい工房で働かせてもらったんだ。授業がないときに」
「へえ、良い経験ができたな」
拓也が裕斗の頭に顎をのせ、ぐりぐりしてくる。裕斗は笑いながら続きを話す。
「でさ、やっぱり俺は、早く服飾の仕事に就きたいって思ったんだ。勉強も楽しかったけど」
「そうか。あっちに未練がないなら良いんだ」
安堵したような声だ。でもどこか物足りなさそうな感じも。
「拓也に早く会いたかったしね」
裕斗は振り返って、拓也の目を見つめた。
「待っててくれてありがとう。ほんと――『WIND』 で働いてたのには驚いたけど、嬉しかった」
自分からそっと触れるだけのキスをした。
ふいに拓也が、ぎゅっと裕斗を抱きすくめてくる。
「留学すると太るって聞くけど、裕斗は変わらない――っていうか、むしろ痩せた?」
「痩せたかも。あっちの食事が好みじゃなかったんだ。俺って日本食大好きなんだなって実感した」
お湯をパシャパシャさせながら遊んでいると、拓也がまた話してくる。
「裕斗さ、イくときに耳たぶ触ってただろ」
いきなり鋭い指摘をされ、裕斗は困ってしまう。
「あーそうかもね」
「なんで? 前はしなかったのに」
「フランスで……オナニーするとき、いつもピアスを触ってたんだよ。拓也のこと思い浮かべて」
恥ずかしいが、開き直って白状する。
「ええ? 嬉しすぎるんだけど、それ」
痛いほど強くハグしてくる。更に右耳の耳たぶをペロッと舐められて、裕斗は肩を竦めた。
「一途だったじゃん。俺もそうだけど」
拓也が嬉しそうにいう。
「俺もって?」
「俺も自分でするとき、裕斗の写真見ながらしてたからさ。卒業式のスーツ姿とか、俺が気に入ってた茶髪でマッシュルームカットの写真」
「え? それって」
その二枚の画像は、拓也にはあげていなかったはず。
「スーツのは友斗。茶髪のは店長からもらった。推しの写真だって言って。本当に、二枚とも凄い好みだった」
またスーツも着て見せろよ、と拓也が耳元で囁いてくる。
お互い一年間、想い合って自慰していたということか。恥ずかしいけど嬉しいものだ。
「友斗、前より明るくなったな。拓也のことも吹っ切れた感じだし」
今日の彼は常に明るかったし、笑顔が絶えなかった。
「それはそうだろ。新しい彼氏ができたからな。今回は自分のセクシャリティをちゃんと伝えてから付き合ったみたいだから、問題は起きないんじゃないか」
「へえ、新しい彼氏か。友斗もやるね」
ちょっと意外だったが朗報だ。相手が友斗の性嗜好を分かっている上で交際しているのなら、長く付き合えるかもしれない。
「ところでさ、俺の部屋の鍵ってまだ持ってるか?」
「あ、持ってる。ごめん、返すの忘れてたよな」
「良いよ、また一緒に暮らそう。今度は住民票も俺の住所にすれば良い」
そうするのが当たり前のように、自然な口調で拓也がいった。
「ありがとう。そうさせてもらう」
お互い少し、穏やかになったというか、大人になったような気がする。
「ていうかさ、俺と今日会わなかったら、どうするつもりだったんだ? 住む場所」
「え……ホテルにでも泊まろうと思ってた」
でも、賃貸のアパートを早く探そうという焦りはなかった気がする。どこかで期待というか、信じていたのかもしれない。拓也とまた一緒に生活できると。鍵を返さないまま渡仏したのも、そんな心の表れかもしれない。
「好きだからな」
拓也の告白に、裕斗も「好きだよ」と返す。
なんとなく二人は黙って見つめ合った。
自然と顔が近づき、唇が重なる。
そのキスは、もう離れることはないんだと、裕斗を安心させてくれるような、優しい口づけだった。
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