間違えた紅茶とバウムクーヘン

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"はぁ…" ふと出た、ため息 ティーカップから紅茶が零れる テーブルから滴り落ちる、其れ 私は椅子にもたれ掛かり、もう一度ため息をつく 「なにしてるの??」 ふっ、と横を見ると小さな子供が見ている まん丸お目目をした少女が、 こてんと首を傾げてティーカップを除く 「新しい遊び?」 「違うよ、コレは偽物愛」 どうしよう、ぼーっとしてて、 わけわかんないこと言っちゃった 「???、勿体ないジュース…」 キョトンとした顔して、 当たり前のように注意された 「ジュースじゃない、コウチャデス」 私は、少しふくれっ面で答える 「コウチャ、紅茶かぁ、…ってなに?」 私は、えっ、と驚く 紅茶を知らないとは そんなに物知らずだっただろうか? 不思議に思いながら、簡単に説明する 「お茶、だね。飲めばわかるよ」 新しいお茶を入れ、彼女に差し出す 少女は、注がれ揺れ水面を作る紅茶の表面を、 ジーッと見つめて、 カップをそっと両手で持ち、口に運ぶ …ゴクゴク 「……甘いお茶!」 ぱぁぁっと少女の顔が驚きから喜びの顔に変わる 「よく、アップルティーとか言うでしょう?」 「うんっ!」 「それのこと。ちなみに、それはキャラメルティー。お菓子のお供に持ってこいのお茶よ」 「へぇー!」 少女はティーカップを両手でしっかり持ち、 ずいっと前にだしてくる 「おかわり!!」 「気に入ってくれた??」 私は、くすくす笑いながら、キャラメルティーを注ぐ ついでに、自分で零した紅茶の湖を拭く 「なんで、ゴクッ…紅茶こぼして遊んでたの??」 紅茶を飲みながら聞いてくる少女 「あ、遊んでないよ?」 思わず、うわずる声 「でも、こぼれてた!」 「あー、うん。こぼれちゃったの!」 ニコニコ 「……そっかぁ」 ニコニコ 歪な笑顔をしてるだろう私を まじまじと見ながら、 微笑む少女 「う、うん」 ニコニコニコニコ 私も負けじと笑ってみる 「……嘘はダメだよ!」 …チッ 心の中で舌打ち いけないいけない、相手は子供 ズバッと言われたセリフにイラつきを覚えたが、 私はもういい大人である よくないよくない 少女は、ティーカップをトンっとテーブルに起き言う 「嘘は泥棒の始まりってよくいうし、飲食で遊んじゃダメともきくよ」 「………」 ズゲズゲと正論を言ってくる少女に、 何も言えなくなる私 事故、といいたい…けど、 どーしようかなぁ… チラッと少女をみれば、 少女は美味しそうに紅茶を飲んでいる そんな時…、 「紅茶飲むようなったの?お菓子あげる」 と別の声が聞こえた 見ると少年が立っていた "やぁ"と彼が私に手を上げる 少女は、少年に"ありがと!"といい、 モグモグとクッキーを食べはじめた 「どうしたの?」 私は彼に、紅茶を入れながら問う 「いやぁ、甘い香りに誘われて…」 真顔で答える彼 顔がまじで狙いに来ている この少年、根っからの甘党で甘いものに目がない 私は半場呆れた顔で、紅茶を出す "クンクン" 「…キャラメルティー?」 匂いを嗅いできく少年 「そうよ、お菓子は残念ながら、クッキーしかないけれど」 テーブルの下から 箱入りボックスクッキーを取り出した このクッキーの匂いに釣られて 来たというのだろうか?? 箱入りよ?これが本当なら、彼の嗅覚は恐ろしい それとも… 「ねぇねぇ、さっきね、テーブルに紅茶の水溜まりができてたんだよ」 少女が少年に言う ……なんでいっちゃうの! 「…えーっと」 目が泳ぐ私 「……そうなの?」 キョトンと少年 「うん」 と、少女 やめてほしい、 私のばらされたくない事を、 この子は周りに流す気だろうか? 危険人物Aなの?? 「そっかぁ…じゃぁ、大の大人が飲み物で遊んでたってSNSで呟いとこうかな」 …危険人物B?? 「テーブルからも零れてた」 危険人物A? 「おもらしも追加する?」 危険人物B?それ、ウソじゃん 「それに、嘘もついた」 A? 「ネタありがとう」 B?ネタにするな 「でも、私もキッチンでよく水遊びする」 おぉぉい?A?? 「わかる、アレ楽しいよね」 うおぉぉい?B??? どうしよう、この子達、私より悪かもしれない あははは、と盛り上がっている2人 いや、盛り上がっちゃダメじゃない? 「まぁ、大人もさ失敗しちゃう時ってあるんだよ。まぁ、わざとやった場合は馬鹿っていうんだけど」 ギクッ 「そんな人じゃないと思うから」 と、言葉を続ける少年 「……」 思わず無言になる私 そのまま、ゴクゴクっと 残りの紅茶を飲み干し、継ぎ足す かなり薄くなってきた紅茶 私の心も擦り減りそう 「そっかぁ…なら、しょーがないね!」 少女の笑顔がビシバシ 私の心はズキズキ 「だからね、この話はここだけの秘密にしよう」 彼はシーっと人差し指を口に当てる 「うん!そーする!」 彼女が元気に返事をした わぁ、すごい胸が痛い 「そういえば、皆が外で呼んでたよ。あそびましょーって」 と、少年 よかった、立ち去ってくれるらしい 「わかった!!美味しかったよ!」 そういい、"またね!"と手を振る少女 と、 …立ち去らない少年 私は少女に手を振りながら、 タラタラと嫌な汗をかく 「で、なに遊んでたの?」 少女が消えて、束の間 「えっ?え、えーと…」 アハハ…、と笑う 私に危険が、また迫りよってきた んーと、んーと、…あっ、 ピーンと閃いた私 「ゴホンッ」 咳払いひとつ。 「本当は明日のおやつにしようと思ってたけど、ばらさないのなら、これを君にあげようかな…」 そっ、と後ろの棚からテーブルに出すソレ 彼の顔がみるみるうちに 興奮と喜びに支配されていく それもそのはず、 目の前には、すごく美味しいと評判のお菓子 彼はこれを嗅ぎつけてきたのか?と、 クッキーの時に思ったくらいに、甘い匂いがたっている 「これ!これっ、あの、朝から並んでも6時間は並ぶっていう有名なお店のバ、バ、バウムクーヘン!だよね!?」 少年は興奮気味に言う 「そう、今朝、ようやく手に入ったの…」 分かってくれる?と、 バウムクーヘンを前に進める 「た、たべたい!ください!」 キラキラした瞳で見てくる彼 「ほしいならば…?」 私がゆっくり聞く 「言わない!広めませんから!」 どうかぁぁと、両手を合わせて懇願してくる少年 「…よろしい」 よっしゃぁぁ、勝ったぜ私 心の中でガッツポーズ 「ところで、なんで紅茶こぼしたの?」 "ガチャン!!" フォークがお皿に当たって酷い音が鳴る 見逃してはくれないんかいっ 「大丈夫?広めないとはいった、聞かないとは言ってないよ」 "ありがと"、とお皿とフォーク受けとり バウムクーヘンを頬張る少年 「そこは、黙って食べようよ」 「ないね」 ないんかいっ 「見逃してくれると思ったのにぃぃ」 「僕を甘く見すぎ」 "おぉぉいしぃぃ"と、 バウムクーヘンに感動している少年 「ちぇっ」 私も膨れつつバウムクーヘンを頬張る おぉぉぉ、おいしぃぃ… 長く並んだ甲斐あったな 「このバウムクーヘン、蜂蜜使ってるんだよね!甘くて濃厚、卵のような甘さもあって、絶品!!」 相変わらず、食レポうまいなぁ… まぁ、これで周りにばらされないなら、万々歳、かな といっても、隠すこと無かったかなぁ? 「それで、紅茶零し事件がなに?」 いつのまにか、名前付けられてるし… 「いや、馬鹿して腕が当たったの」 と、いってみる けど… 「なに考えてたの?」 なぁんで聞いてくるかなぁ! それが一番嫌だった でも、この子はそーゆー子、知ってた! 「うぅん…まぁ、その、いや、馬鹿しただけ」 しどろもどろの誤魔化せれてない回答 「ふぅん?ウソツキ」 少年の真顔からの パクッとバウムクーヘン んっんー…ハイ 「いやぁ、なんかさ、ぼーっとしちゃって」 これはホントだよ?って彼を見る 「それでさぁ…」 と、事の経緯を彼に話した 最近上手くいかないなって時を 長く生きてりゃ経験することなんて何度もあるだろう その時が最近で、グレーな気持ちが ブルーになりつつある今日この頃 今日飲もうと思ったものは、アップルティーだった でも、上手くいかないことが立て続けに起きて、 心身ともに疲労していた ぼーっとしていたのか、 出来上がった紅茶はキャラメルティー いや、キャラメルも好きだし、 お菓子があったから、まぁいいかとも思う でも、上手くいかないことがありすぎて、 こんな些細なことにも、ちょっと心疲れるわけで ふと出た、ため息 何を思ったのか、私はティーカップを傾けた ゆっくり零れていく紅茶 テーブルの脚を伝って落ちていく 私が間違えてしまったキャラメルティー 勿体ないと頭では思うのに、 そんな私はぼーっと眺めていた 「…しにたいなって、思う時ある?」 一通り話して、そんな質問をしてみる 「なに、そこまで考えてたの?」 「うん…」 と、静かに答える私 「まぁ、ないとはいえない、かな」 少年は空を見ながら答える 「変なこと考えてるの、ずっと」 「変なこと?」 なにそれ?と続ける 「価値の測り方を間違ってると言われれば、そうなんだけど。どうしてもね、私は自分に価値なんかないと思える」 「それはどうして?」 「誰からも愛されていないから」 私は遠くを見ながら答えた 「……」 しん、と静まる部屋 愛されている、そこに価値を置く私 私は思う 誰からも愛されてない私に価値はない、と だから、しにたくなる なんで生きてるんだろうって 価値なんかないのに、しぬ勇気すらなく ただ、坦々に生きている 何も変わらない、いつもと同じ毎日 刺激もなければ変化もない こんな毎日、なぜ、私はここに居るんだろうって 「まぁ、別にしぬわけじゃないんだけど」 私は残りのバウムクーヘンを食べながら言う 「僕は、年下だし、立場も違うから上手いこと言えないけど、それでも、生きてくれていたらって思うよ」 「なぜ?」 「愛とかは、わからない。僕はそこに価値を置いてないから。でも、長く一緒にいたいと思うよ、悲しいと思うよ」 「そっか…」 「まぁ、そうは言っても、愛ではないから、やっぱり力にはなれないけれど、傍にはいるよ」 優しく言う少年 「ありがと…君は何処に価値を置いてるの?」 「僕?僕は、守るべき存在が居るかどうか」 「まるで、ヒーローみたいな口ぶり」 「なに言ってるの?僕はヒーローだよ」 どやぁと、キメ顔 「……」 「いや、そんな冗談は置いといて」 私が無言で見つめていると、 気まずくなったのか話題を戻す彼 「僕は正義感で生きてるからね。守るべきものが居なくなったら、僕のお役目も価値もなくなる。僕はしっかりしなきゃいけない、そう思って生きてる。でも、完璧な人間なんていない。わかってるんだ、僕だって完璧じゃぁない。こうして甘いものに釣られてるあたりが最もだよ。でも、守りたいものがある、それを守れる僕は価値があるって思うんだ」 「…なるほどねぇ、皆はどう、生きてるのかな」 彼の言う、それもきっとひとつの価値だろう 完璧な人間などいない、そりゃそうだ でも、彼はその中でヒーローとも言える役割を自分に課している それは、彼が思う正義ってやつで、 彼の取れないこだわりってやつだろう ヒーローが完璧でなければいけない、そんなルールはないけれど 少しでも正義を固めるともなれば、彼の真面目な性格だ 完璧ではない、完璧人間になろうとする考えだ 私は、ウンウンと頷いた ぼーっと窓を見つめる そこには、私が家族と呼ぶ人達が遊んでいた 「私はね、のほほんと生きてるよ」 「「わっ!」」 急に、現れた者に2人してビックリし声を上げる "くすくす" と、笑う彼女がいた 彼女は、私と彼の間に立っていた いつ、部屋に入ってきたんだろう? 全然気が付かなかった… 「2人で美味しい物食べてたでしょー」 私ももーらいっと、バウムクーヘンをつつかれる 私の有無も聞かず、彼女の口に消えた 一欠片のバウムクーヘン 「おいしぃぃぃ!!」 そりゃ、まぁ、長時間並びましたもの… 「ところで、生死の話?また、退屈な話、あきない?」 人が悶々と悩んでたことを、退屈とかあきない?とか 酷い話である 「のほほんと生きてるってどゆこと?」 と、少年は聞く 「そのままよ?人生1度きりしかないんだから、そんなの考えず思うがままに、生きればいいよ」 「もし、しにたくなったら?」 「しねばいい、サクッとね」 私の質問に、あっけらかんと答える彼女 ポカーン…私は思わずかたまる え、それでいいの?そーゆーことなの? 「え、どこで悩んでるの?」 意味がわからないと彼女 「いや、そんな簡単にしねるもの?」 私は怪訝に聞く 「人間、何があるか分からないじゃない。もしかしたら、明日事故でいないかも。もしか、明日勇気が湧いて、衝動的に逝っちゃうかも。もしか、明日病気になるかも。こうやって、人は生きてるんだよ」 「それは、そうだけど…」 「悩んでるだけ無駄だよ」 さも当然かのように言う きっと、彼女にとって当然なんだろう 「何処に価値を置いて生きてる?」 と、聞いてみる 「価値?自分かな」 また、分からない回答だ 「いい?」 私が分からないという顔をしていると、 人差し指を立てて目を向けてくれた 「あのね、私は自然死を望む。だから、のほほんと生きるの。何があるか分からない自分の人生に価値を生ませるように」 「それってさぁ、今の自分に価値はないってこと?」 少年はいう 「そうよ。私に価値はない。しんだ後、傍にいてくれた者が付けてくれるわ。私はそれでいいの。最後、私の傍にいたってことは、その人にとって、私はなんらかの価値があったってことよ。それが例え、お金の関係でもいいわ」 最悪な例えかもしれないけどね、と彼女は笑う そんな考え方もあるのか… 私にはそんな考えはできなかったし、 今聞いても出来ない きっと、彼女だけの価値観 でも、素敵な価値観だと純粋に思う 私には、出来ない けれど、それでも、それは間違っていない、 素敵な考えだと思った 「なるほどねぇ」 少年は、うなずく 「ま、そんなところ。話はいいかしら?実は人数が足りないのよ」 「う、うん?」 私は、急に変わった話に、 なんの話だろう?と前のめりに身体を起こす 「おにごっこ」 と、彼女は窓外を指さす そこには、子供と大人がまばらにはしゃぎ遊んでいる 1人の子供が、複数人を追いかけていた その顔は必死である 「少人数じゃ楽しくないでしょ?貴方達を呼びに来たの」 「あ、そうだったの?」 「そうよ、バウムクーヘンを食べに来たわけじゃないわ」 と言いつつ、彼女はまたバウムクーヘンを1つパクリ いや、バウムクーヘン食べに来たよね? 「いや、バウムクーヘン食べに来たよね?」 私が思ってることを、彼が言った 「ちがうわ、そこにあったから。バウムクーヘンが私を食べてっていうから、仕方なくよ」 また、パクリ 「そんな、山があったからみたいなニュアンスで」 「仕方なくなら、食べてもらわなくても…」 彼と私はお皿を下げようとする 「いや、食べに来た」 彼女がお皿を抑える、必死か 「食べにきたんじゃーん、まぁ、いいけどね」 私は苦笑する 「ごめんなさい。まぁ、遊ぼーよ」 彼女は謝りながら、ご馳走様でしたと手を合わせる 「いいよ、じゃぁ、僕先に行ってるね」 と、彼は部屋を後にでていった 彼女は、そんな少年を見ながら言う 「悩んだり、怒ったり、悲しんだり、喜んだり。いろいろあるけどさ、楽しまなきゃ損じゃない、せっかく生まれたんだもの。望んでない事でも、のほほんとやってればいいのよ」 「…うん、ありがと」 私はニコッと笑ってみる 「1度きりの人生楽しみましょ?ずっと悩んでても、空はブルーのままよ」 彼女は部屋から出る時に、そういい、 振り返り様微笑んだ 彼女にはバレていたんだろうか 私が、なにかに悩んでいることに 気付いていたんだろうか …のほほんと言いながら、 彼女もしっかり生きているんじゃないか でも、そうだね、上手くいかない日だ 思いっきり遊んで、笑ってみよう 「はやくーー!」 「今行くー!」 私は、呼ばれた声に笑顔で答える 扉が閉まる、ベルの音が今日を知らせた。 "リリリン…"
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