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辺りはすっかり静かになり、菜花も仕事に集中する。
書類を仕分け、パンチで穴を開けてファイリング。単純作業ではあるが、つまらないとは思わない。そもそも、菜花は単純作業が嫌いではない。
それに、書類の決裁欄などを見ていると、今は経理部長である小金沢がこの時期は補佐だったとか、横山は主任だったとか、そういったことがわかってなんとなく面白い。
へぇ、ほぉ、ふーん、などと感心しながらファイリングしていると、あっという間に時間は過ぎていった。
「お腹すいた……」
ふと時計を見ると、十一時半。もうすぐ昼である。
昼休憩は十二時から一時間で、外に食べに行ってもいいし、このビルの中にレストランが集まった階があるので、そこへ行ってもいい。ビル一階にはコンビニも入っており、そこで何かを買ってきて休憩室で食べるのも構わないとのことだ。
菜花は初日ということもあり、何も持ってきていなかった。同じ部署の人たちがどうするのか、様子を見て合わせようと思ったのだ。
するとその時、電子ロックの解除音が鳴った。誰だろうと、菜花は少し緊張する。
「杉原さん……」
小さな声がしたので、菜花は慌てて立ち上がり、出入口から見えるように顔を出す。そこには、先ほど横山から菜花のことを頼まれていた女性が立っていた。
「あ、あのっ、はい!」
「杉原さん、今お時間ありますか?」
「はい、大丈夫です」
「それでは、今から社内を案内しますね。ついでに各部署の人たちにも、杉原さんのことを紹介しますので」
「はい、ありがとうございます! あの……」
名前を呼びたかったのだが、IDカードが裏返しになっていて見えない。横山が名前を呼んでいたような気もするが、菜花もあれこれと頭の中がいっぱいになっていて、そこまで覚えていなかった。
女性は少し不思議そうな顔をした後、すぐに気付いたようで、IDカードを見せながら自己紹介をする。
「はじめまして。経理部で支払い処理を担当しています、高橋仁奈と申します。よろしくお願いします」
「あのっ、こちらこそ! 杉原菜花です。よろしくお願いします」
仁奈は微かに微笑み、菜花の少し前を歩き出す。菜花は彼女の後をついて行きながら、彼女の様々な部分を観察していく。
スラリとした細身で、背も高い。ローヒールなのに、菜花よりも十センチ以上は高いだろう。モデル体型でかっこいい。
さっき顔を合わせた時の印象は、とにかくおとなしくて控えめ、少し悪い言い方になってしまうが、地味だと感じた。
目や鼻、口、一つ一つのパーツは形が整っているけれど、強い主張はなく、のっぺりとした感じとでも言えばいいのだろうか。化粧も薄く、アイシャドウは塗られているがあくまで控えめだし、アイラインなどは入っておらず、口紅の色もナチュラルだ。パッと見はノーメイクにも見えなくもない。
それでもがさつな感じはしないし、品の良さも感じられるので、彼女自身の性格や人格が顔に現れているのかもしれない。
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