2.監察開始

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 菜花は、社内施設やビル全体について仁奈から案内と説明を受け、その後で各部署に挨拶回りをしていった。  どこの部署にも必ず女性はいるのだが、全体的な印象としては、華やかの一言。男性陣も若手は垢抜けていて、どことなくキラキラしているように見えた。  年配の人間はというとそれぞれになってくるが、不潔でだらしがなく、女性社員から目の敵にされるようなタイプはパッと見ではいない。  社員全員、仕事ができそうに見える。さすが、飛ぶ鳥を落とす勢いと評判の此花電機だ、と感心した。  創業時は町の電器店だった会社がここまで大きくなるのだから、歴代の社長は相当のやり手なのだろう。  業績は順調で右肩上がり。そういったこともあって、若手社員も多く、活気に満ちており、華やかで派手。菜花の第一印象はそれに尽きた。  その中で、仁奈は周りとは馴染まないほど控えめで、経理部内でも特に仲のいい女性はいないようだった。いじめられていたり、除け者にされているというのではなく、彼女が他と一歩距離を置いているように見えた。 「あぁ、もうお昼ですね。杉原さんはお弁当とか持ってきてますか?」 「いえ。皆さんどうされるのかなと……」 「経理部の女性の皆さんは、五階のレストランに行かれることが多いみたいです。声をかけましょうか?」 「え、いや、あの……」 「ちょっと待っててくださいね」 「あ……はい……」  菜花がまごついている間に、仁奈は他の女性に声をかけに行ってしまった。  こうして案内してくれたのだから、そのまま一緒にお昼を食べると思っていたのに。いやでも、今日は何か予定があるのかもしれない。  菜花は気を取り直し、彼女の戻りを待つ。仁奈はすぐに戻ってきて、他の女性たちに話をつけてきたと言う。  彼女たちはすぐに菜花のところへやって来て、それぞれに声をかけてくれた。 「杉原さん! 私、同じ部署の寺崎です。お昼、五階でいい?」 「はい」 「それじゃ、一緒に行きましょうね」 「あ、私は今宮でーす! よろしくね」 「はい、よろしくお願いします!」  寺崎は、経理部女性陣のまとめ役という話を聞いたが、貫禄のある姉御肌な雰囲気で頼りがいがありそうだ。そして今宮の方は、菜花とさほど年が変わらない感じで、あっけらかんとした明るい女性だった。 「あの! 高橋さん、ありがとうございました!」  菜花がぺこりとお辞儀すると、彼女はまた微かに微笑み、静かに頭を下げる。  どう考えても菜花の方が年下だし、新米ぺーぺーであるにもかかわらず、仁奈は常に敬語で、態度も上司に対するのと同じように丁寧だった。  こんな人もいるんだなぁ、などと思いながら、菜花は寺崎と今宮とともにオフィスを後にした。
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