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菜花は、社内施設やビル全体について仁奈から案内と説明を受け、その後で各部署に挨拶回りをしていった。
どこの部署にも必ず女性はいるのだが、全体的な印象としては、華やかの一言。男性陣も若手は垢抜けていて、どことなくキラキラしているように見えた。
年配の人間はというとそれぞれになってくるが、不潔でだらしがなく、女性社員から目の敵にされるようなタイプはパッと見ではいない。
社員全員、仕事ができそうに見える。さすが、飛ぶ鳥を落とす勢いと評判の此花電機だ、と感心した。
創業時は町の電器店だった会社がここまで大きくなるのだから、歴代の社長は相当のやり手なのだろう。
業績は順調で右肩上がり。そういったこともあって、若手社員も多く、活気に満ちており、華やかで派手。菜花の第一印象はそれに尽きた。
その中で、仁奈は周りとは馴染まないほど控えめで、経理部内でも特に仲のいい女性はいないようだった。いじめられていたり、除け者にされているというのではなく、彼女が他と一歩距離を置いているように見えた。
「あぁ、もうお昼ですね。杉原さんはお弁当とか持ってきてますか?」
「いえ。皆さんどうされるのかなと……」
「経理部の女性の皆さんは、五階のレストランに行かれることが多いみたいです。声をかけましょうか?」
「え、いや、あの……」
「ちょっと待っててくださいね」
「あ……はい……」
菜花がまごついている間に、仁奈は他の女性に声をかけに行ってしまった。
こうして案内してくれたのだから、そのまま一緒にお昼を食べると思っていたのに。いやでも、今日は何か予定があるのかもしれない。
菜花は気を取り直し、彼女の戻りを待つ。仁奈はすぐに戻ってきて、他の女性たちに話をつけてきたと言う。
彼女たちはすぐに菜花のところへやって来て、それぞれに声をかけてくれた。
「杉原さん! 私、同じ部署の寺崎です。お昼、五階でいい?」
「はい」
「それじゃ、一緒に行きましょうね」
「あ、私は今宮でーす! よろしくね」
「はい、よろしくお願いします!」
寺崎は、経理部女性陣のまとめ役という話を聞いたが、貫禄のある姉御肌な雰囲気で頼りがいがありそうだ。そして今宮の方は、菜花とさほど年が変わらない感じで、あっけらかんとした明るい女性だった。
「あの! 高橋さん、ありがとうございました!」
菜花がぺこりとお辞儀すると、彼女はまた微かに微笑み、静かに頭を下げる。
どう考えても菜花の方が年下だし、新米ぺーぺーであるにもかかわらず、仁奈は常に敬語で、態度も上司に対するのと同じように丁寧だった。
こんな人もいるんだなぁ、などと思いながら、菜花は寺崎と今宮とともにオフィスを後にした。
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