3.綻び

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「ユリ! やっと会えた! ずっと会いたかったんだよ!」 「そうだよ。ユリは指名してもなかなかついてもらえないからなぁ」 「ごめんなさい。でもその分、今日は存分におもてなしさせてくださいね」 「今夜は離さないよ!」 「部長~、それセクハラですよぉ」 「あはははは! それじゃ、ユリのためにいい酒入れるか!」 「いよっ! さすが部長!」  どうやら、あのユリというキャバ嬢は相当な人気者のようだ。指名してもなかなかテーブルについてもらえないというのだから、かなりのものだろう。この店のナンバーワンかもしれない。  そんなことを思っていると、エリカが耳元でそっと囁いた。 「あら。吉良さんも、ユリちゃんみたいなタイプがお好み?」  突然色っぽい声がしたものだから、結翔は飛び上がりそうになる。  そんな結翔に妖艶な笑みを向け、エリカは水割りを作りながら彼女のことを教えてくれた。 「ユリちゃんはこの店のナンバーワンなの。美人だしスタイルもいいし、おまけに知識と教養もあるものだから、大企業のお偉いさんにも大人気。愛人にならないか、なんて誘いも受けてるほどなのよ」 「あー……すごいですね」 「実は、佐藤社長もユリちゃんのファンなの。ほら、さっきからチラチラとあっちばっかり見てる。ちょっと悔しいなぁ」  そう言って、エリカは小さく唇を尖らせる。先ほどの妖艶さとは打って変わり、その子どもっぽい仕草に結翔はクスリと笑みを漏らした。 「あ、笑った。私なんかが悔しいなんて、おこがましいって思ってる?」 「そんなことないですよ。エリカさんだって美人だし可愛いし、あれこれよく気が付くし、魅力的だと思いますよ」 「ほんと……?」 「はい」 「きゃあ! 嬉しい~~っ」 「うわぁ!」 「吉良、エリカさんがタイプだったのか? チラッと聞こえたけど、かっこいいこと言ってたな」 「水無瀬さんっ」 「お、エリカは吉良君狙いか。やっぱりなぁ」  エリカに抱きつかれ、あたふたとする結翔を皆が揶揄う。佐藤社長やその部下たち、そして水無瀬も全員が大笑いしていた。  結翔はそのノリのまま道化ていたのだが、ふと気付く。  水無瀬の視線が大きく動き、また戻ってくる。その間僅か数秒。おそらく、この場の誰も気付いてはいまい。 「吉良さん、私、今日お持ち帰りされちゃってもいいよ?」 「いやいやいや、エリカさんを独り占めになんてできないですよ」 「そんなこと気にしなくていいのに!」  思い切り気にするわ!  と心の中でツッコミを入れつつ、結翔は先ほど見た水無瀬の視線の先を窺う。  そこにあったのは『クラブ・アンジェ』のナンバーワンキャバ嬢──ユリの姿だった。
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