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「ユリ! やっと会えた! ずっと会いたかったんだよ!」
「そうだよ。ユリは指名してもなかなかついてもらえないからなぁ」
「ごめんなさい。でもその分、今日は存分におもてなしさせてくださいね」
「今夜は離さないよ!」
「部長~、それセクハラですよぉ」
「あはははは! それじゃ、ユリのためにいい酒入れるか!」
「いよっ! さすが部長!」
どうやら、あのユリというキャバ嬢は相当な人気者のようだ。指名してもなかなかテーブルについてもらえないというのだから、かなりのものだろう。この店のナンバーワンかもしれない。
そんなことを思っていると、エリカが耳元でそっと囁いた。
「あら。吉良さんも、ユリちゃんみたいなタイプがお好み?」
突然色っぽい声がしたものだから、結翔は飛び上がりそうになる。
そんな結翔に妖艶な笑みを向け、エリカは水割りを作りながら彼女のことを教えてくれた。
「ユリちゃんはこの店のナンバーワンなの。美人だしスタイルもいいし、おまけに知識と教養もあるものだから、大企業のお偉いさんにも大人気。愛人にならないか、なんて誘いも受けてるほどなのよ」
「あー……すごいですね」
「実は、佐藤社長もユリちゃんのファンなの。ほら、さっきからチラチラとあっちばっかり見てる。ちょっと悔しいなぁ」
そう言って、エリカは小さく唇を尖らせる。先ほどの妖艶さとは打って変わり、その子どもっぽい仕草に結翔はクスリと笑みを漏らした。
「あ、笑った。私なんかが悔しいなんて、おこがましいって思ってる?」
「そんなことないですよ。エリカさんだって美人だし可愛いし、あれこれよく気が付くし、魅力的だと思いますよ」
「ほんと……?」
「はい」
「きゃあ! 嬉しい~~っ」
「うわぁ!」
「吉良、エリカさんがタイプだったのか? チラッと聞こえたけど、かっこいいこと言ってたな」
「水無瀬さんっ」
「お、エリカは吉良君狙いか。やっぱりなぁ」
エリカに抱きつかれ、あたふたとする結翔を皆が揶揄う。佐藤社長やその部下たち、そして水無瀬も全員が大笑いしていた。
結翔はそのノリのまま道化ていたのだが、ふと気付く。
水無瀬の視線が大きく動き、また戻ってくる。その間僅か数秒。おそらく、この場の誰も気付いてはいまい。
「吉良さん、私、今日お持ち帰りされちゃってもいいよ?」
「いやいやいや、エリカさんを独り占めになんてできないですよ」
「そんなこと気にしなくていいのに!」
思い切り気にするわ!
と心の中でツッコミを入れつつ、結翔は先ほど見た水無瀬の視線の先を窺う。
そこにあったのは『クラブ・アンジェ』のナンバーワンキャバ嬢──ユリの姿だった。
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