5.無茶ぶり

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 結局、菜花も同じものをオーダーすることになり、テーブルにはケーキセットが三つ並べられる。  和栗のモンブランに、アッサムティー。紅茶はポットで用意され、一杯目だけを店員がカップに注いでいった。 「美味しそう……」 「美味しいよ。甘さは控えめなんだけど、香りがいいんだよね」  水無瀬がそう言って微笑み、紅茶を口にする。  菜花は早速ケーキを食べてみた。確かに甘さは控えめで、ほんのりと優しい風味に頬が緩む。 「気に入ってもらえたみたいだね」 「はい!」 「うっま! これ、たまんない!」  結翔もニコニコしながらケーキを頬張っている。  水無瀬と結翔は紅茶をストレートのまま飲んでいるが、菜花はミルクティーにする。アッサムといえばミルクティーだ。ピッチャーに入っているミルクを注いでいく。飲んでみると、コクはありつつもまろやかな味になっていた。香りもいい。仕事中だということを忘れてしまいそうだ。  美味しいケーキとお茶にすっかり癒され、菜花の緊張もかなり解れてきた。会話を楽しむ余裕も出てきたところで、ブブブッと小さな音が聞こえる。 「あぁ、僕だ。ちょっと出てくる」  音が鳴っていたのは水無瀬のスマートフォンだった。彼は通話するために一旦席を外す。 「忙しそうだね」 「なにせ、営業成績トップだから」  残った二人は、そのままのんびりとお茶を楽しむ。だが、結翔は少し声量を落とし、言った。 「実はさ、菜花に頼みたいことがあるんだ」  そう言われた瞬間、菜花は項垂れる。何か意図があるとは思ったが、ここで来るのか。  菜花は大きく溜息をついた。 「はぁぁ……。一応聞くけど、できるかどうかはわかんないよ」 「やれ。で、やってほしいことは……」  強制か! と密かにツッコミを入れながら話を聞いてみると、水無瀬の婚約者である専務の娘の写真が見たいということだった。 「はぁ? そんなの、結翔君がねだればいいだけじゃん」 「俺がねだっても、ガードが固いから言ってんだよ」 「結翔君でだめなら、私もだめじゃん」 「いや、それがそうでもない」  更に話を聞けば、水無瀬は男相手にはなんだかんだ言って逃げてしまうのだが、女相手だと見せてくれるのだという。実際、営業部の女子社員たちは皆見せてもらったのだそうだ。 「なんで女性なら見せてくれるんだろう?」 「さぁ? 女はより好奇心旺盛だし、よけいな噂を立てられても厄介だからじゃない? それに、牽制の意味もあるんじゃないかな」 「牽制?」  菜花が首を傾げると、結翔は肩を竦める。 「俺にはもう婚約者がいるから、そのつもりでっていう」 「……そんなの、皆もうわかってると思うけど」 「写真を見せた方が、より現実味があるじゃん。……ってまぁ、ほんとのところはわかんないけど」  男には見せず、女には見せる。  よくわからないが、要はあまり見せたくないのだろう。見せたいなら、男女問わず見せびらかすだろうから。
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