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結局、菜花も同じものをオーダーすることになり、テーブルにはケーキセットが三つ並べられる。
和栗のモンブランに、アッサムティー。紅茶はポットで用意され、一杯目だけを店員がカップに注いでいった。
「美味しそう……」
「美味しいよ。甘さは控えめなんだけど、香りがいいんだよね」
水無瀬がそう言って微笑み、紅茶を口にする。
菜花は早速ケーキを食べてみた。確かに甘さは控えめで、ほんのりと優しい風味に頬が緩む。
「気に入ってもらえたみたいだね」
「はい!」
「うっま! これ、たまんない!」
結翔もニコニコしながらケーキを頬張っている。
水無瀬と結翔は紅茶をストレートのまま飲んでいるが、菜花はミルクティーにする。アッサムといえばミルクティーだ。ピッチャーに入っているミルクを注いでいく。飲んでみると、コクはありつつもまろやかな味になっていた。香りもいい。仕事中だということを忘れてしまいそうだ。
美味しいケーキとお茶にすっかり癒され、菜花の緊張もかなり解れてきた。会話を楽しむ余裕も出てきたところで、ブブブッと小さな音が聞こえる。
「あぁ、僕だ。ちょっと出てくる」
音が鳴っていたのは水無瀬のスマートフォンだった。彼は通話するために一旦席を外す。
「忙しそうだね」
「なにせ、営業成績トップだから」
残った二人は、そのままのんびりとお茶を楽しむ。だが、結翔は少し声量を落とし、言った。
「実はさ、菜花に頼みたいことがあるんだ」
そう言われた瞬間、菜花は項垂れる。何か意図があるとは思ったが、ここで来るのか。
菜花は大きく溜息をついた。
「はぁぁ……。一応聞くけど、できるかどうかはわかんないよ」
「やれ。で、やってほしいことは……」
強制か! と密かにツッコミを入れながら話を聞いてみると、水無瀬の婚約者である専務の娘の写真が見たいということだった。
「はぁ? そんなの、結翔君がねだればいいだけじゃん」
「俺がねだっても、ガードが固いから言ってんだよ」
「結翔君でだめなら、私もだめじゃん」
「いや、それがそうでもない」
更に話を聞けば、水無瀬は男相手にはなんだかんだ言って逃げてしまうのだが、女相手だと見せてくれるのだという。実際、営業部の女子社員たちは皆見せてもらったのだそうだ。
「なんで女性なら見せてくれるんだろう?」
「さぁ? 女はより好奇心旺盛だし、よけいな噂を立てられても厄介だからじゃない? それに、牽制の意味もあるんじゃないかな」
「牽制?」
菜花が首を傾げると、結翔は肩を竦める。
「俺にはもう婚約者がいるから、そのつもりでっていう」
「……そんなの、皆もうわかってると思うけど」
「写真を見せた方が、より現実味があるじゃん。……ってまぁ、ほんとのところはわかんないけど」
男には見せず、女には見せる。
よくわからないが、要はあまり見せたくないのだろう。見せたいなら、男女問わず見せびらかすだろうから。
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