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「私が頼んで、見せてくれると思う? というか、なんで? それ、監察に関係ある?」
「今のところはない。でも、一応押さえておきたい」
「うーん……。とりあえず言ってみるけど、あんまり期待はしないでよ?」
「わかったわかった。あ、戻ってきた。頼むよ、菜花」
結翔の言うとおり、電話を終えた水無瀬が戻ってくる。
菜花は少々気が重くなりながらも、気合を入れて笑顔を作る。
「お疲れ様です。何かあったんですか?」
菜花が尋ねると、水無瀬は大丈夫だと笑って答えた。ちょっとした確認で電話がかかってくるのはしょっちゅうなのだという。
とりあえずそこから切り込もうと、菜花は推しを目の前にしたファンになりきった。
「水無瀬さんは営業成績トップなんですよね。すごいです! 取引先もたくさんだから本当に大変だと思うんですけど、相手先も水無瀬さんが担当なら安心ですね」
「あははは。そんなこと言われると照れるね。でも嬉しいよ。ありがとう」
「水無瀬さんのお話はいろんな方から聞くんですけど、すごいってお話ばかりで。イケメンで、優しくて、仕事もできて……おまけに、専務のお嬢さんと婚約もされているとか?」
「そんなことまで聞いてるの? 参ったなぁ」
参ったと言いながらも、まんざらでもなさそうだ。
菜花は手ごたえを感じ、そのまま突き進んだ。
「婚約者の方って、どんな方なんですか? 見てみたいなぁ……なんて」
よし、言った!
無茶ぶりはクリアしたぞとばかりにチラリと視線を遣ると、肝心の結翔は自分のスマートフォンを眺めていた。
どういうこと!? と思えど、ここで引くわけにはいかない。
菜花は引き続き興味津々といった顔で、水無瀬の反応を待った。
「まさか、杉原さんからそんなことを言われるとは思ってなかったなぁ」
ぎくり。もしかして、白々しかっただろうか。
内心焦りながらも、菜花は何とか言い繕う。
「いろんな方から話を聞いているうちに、私も興味が出てきちゃって。でも、無理は言いません。婚約者さんの写真を見た方が、とても素敵な人だったっておっしゃっていたので、私もぜひ見たいなってちょっと思っちゃったんです。ずうずうしくてすみません」
今日初めてまともにしゃべった相手に、そんなにホイホイと見せてくれるわけがない。
菜花が若干頬を引き攣らせながらも笑顔を浮かべていると、水無瀬は突然小さく吹き出した。
「杉原さんは吉良と違って奥ゆかしいなぁ。吉良なんて、ことあるごとに見せろ見せろってうるさいのに」
「だって、見たいじゃないですか! 俺、興味ありまくりですよ!」
「ほら、うるさいだろう?」
結翔は間髪入れずに会話に加わってくる。さすが抜け目がない。
水無瀬はやがて笑いを収めると、私用のスマートフォンをポケットから取り出した。
これはもしかして?
思わず結翔と顔を見合わせると、水無瀬はスマートフォンを操作し、ある画面を二人に見せてくる。そこには、幸せそうに微笑んでいる恋人同士の姿があった。
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