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完璧すぎ? 騙されそう?
菜花は愕然とする。
再びあの時の水無瀬を思い出すが、特に不審には思わなかった。寒気などとんでもない。逆にほっこりとしたくらいだ。
『菜花は水無瀬さんとしゃべるのは今日が初めてってこともあるし、普段……というか、素の水無瀬さんを知らないから無理もないんだけどさ』
「そ、それなら、わかんなくてもしょうがないじゃん!」
『でもさ、女の勘ってやつで、何かおかしいとか、怪しいとか感じ取ったかもって思ったんだよ。でも悪い。菜花にそんなもんはなかったよね。ごめんごめん』
「うぅっ……」
悪気があるのかないのか、結翔にそんなことを言われ、菜花は悔しくてたまらない。しかし、反論できない。
これまでの恋愛で、女の勘というものが働いたためしがない。過去に二股をかけられていたことがあったが、別れを切り出されるまで気付かなかった。
菜花より、結翔の方に「女の勘」というものが備わっているのかもしれない。いや、この場合は「男の勘」か。
だが、結翔の言うとおりだとすると──
「ってことはさ……水無瀬さんは、純奈さんを好きじゃないってこと?」
それは切なすぎる。純奈の方は水無瀬にゾッコンだというのに。
『好きじゃないとまでは言わないけど。でも、好きなのは彼女自身じゃなくて、背景ってとこかな。純粋に彼女を愛してるとは思えない。少なくとも、俺にはそう感じられた』
「……そうなんだ」
『でも、一応女性目線での意見も聞いてみようと思ったんだよ』
「役立たずでごめんねっ! ふんっだ!」
『だーかーらぁ、悪かったって! 怒んなよー』
電話の向こうでへらへらと笑っている結翔が見える。それがまた悔しくてムッとする。
「でもさっ、結翔君が穿ちすぎって線もあるからね! 結翔君は変にいろいろ勘ぐったりする悪い癖があるんだから。腹黒だし」
『腹黒言うな! 俺は腹黒じゃなくて、慎重で頭が切れるだけなのっ!』
自分で言うか。
そうツッコんでもよかったが、すでに気力は失われている。菜花ははいはいと頷くだけに留め、話をさっさと切り上げた。
スマートフォンをベッドに放り、ゴロンと寝転がる。
「水無瀬さんは愛なき結婚をしようとしている? だとしても、不貞がなければ何も言えないよね……。誰か他にいい人がいるなら話は別だけど。……もしかして、いたりするのかな?」
水無瀬の雰囲気は、優しく、そして甘かった。恋愛をしていない男性が、あんな雰囲気を醸し出せるものだろうか。
そういう印象だったから、水無瀬と純奈の写真を見た時、幸せな恋人同士だと思ったのだ。
だが、水無瀬の心が純奈にないのだとすると──。
そういえば、水無瀬には一つ怪しい女性関係が浮かび上がっていたことをふと思い出す。これは結翔からの報告で、相手は有名なキャバクラ店のナンバーワンキャバ嬢とのことだった。
菜花は単なる接客なのではないかと思ったのだが、結翔は気になると言っていた。
今回は何の問題もないだろうと思われたが、そう上手くはいかないということか。
結翔は引き続き、水無瀬の周辺を細かに洗っていくようだが、その展開によってはどうなるかわからない。
菜花はもう一度、水無瀬の笑顔を思い出してみる。
「営業成績トップを維持するためには、嘘の笑顔だって必要だよね。それこそ完璧な」
そう思った途端、あの爽やかな笑顔が一転し、裏のありそうなものに思えてきて、菜花はぶるりと身体を震わせた。
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