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喫茶店から出てきた二人は、仲睦まじく歩いている。
これからどこへ行くのだろうか。
背後から尾行しているので顔ははっきりと見えないが、時折二人が顔を合わせて笑い合っているのはわかる。しかし横顔だけでは、男が水無瀬かどうかはやはりわからない。
本当は金桝に尋ねたいのだが、人の後をつけるということ自体が初めての菜花には、そんな余裕はなかった。こそこそと金桝に隠れるようについていくだけで精一杯だ。
それに比べ、金桝は慣れたものだった。悠然と構えており、不自然さの欠片もない。
おどおどするとかえって怪しまれるとはわかっていても、菜花はついあちこちを見回してしまう。
「菜花君、僕の隣に来てくれないかな?」
「へ?」
いきなり声をかけられ、菜花は何度も瞬きをする。
隣? どうして?
すると、金桝が再び菜花の手を取り、その手を自分の腕に絡ませた。
なに? どういうこと? 腕を組んでる!?
菜花の思考はクエスチョンマークで埋め尽くされる。声を出したいが出せない。その葛藤からか、金魚のように口をパクパクさせていると、金桝が小刻みに肩を震わせながらこう囁く。
「僕の影に隠れてきょろきょろして、それじゃ挙動不審もいいところだよ。堂々としていればバレたって平気。あ、でも菜花君は面が割れてるから……」
金桝はジャケットのポケットに手を入れ、あるものを取り出す。
「これでオッケー」
「これ……眼鏡ですよね?」
手渡されたものは、紛うことなき眼鏡。オーソドックスな形で、それなりに誰でも似合いそうな。
「度は入ってないから大丈夫」
「変装ですか?」
「そうそう」
「これくらいで変装になりますか?」
「普段、菜花君は眼鏡をかけていないだろう? なら、割と誤魔化せるものだよ。ただし、オロオロせずに自信を持つこと。そうすれば、顔を見られても意外とバレない」
そんなものだろうか。
半信半疑のまま、菜花は渡された眼鏡をかける。菜花はコンタクトを使用しているが、度が入っていないなら問題ない。
眼鏡をかけた菜花を見て、金桝は満足そうに頷いた。
「うん、可愛い」
「……っ」
その一言はいらない。
赤くなった顔を見られないように俯くと、金桝が追い打ちをかけてきた。
「いいねぇ。そのまま、もう少しこっちに寄って」
「な、何をっ」
「シッ。僕たちもカップルの振りをしてるんだから」
そんな必要がありますか!?
そう喉まで出かかったが、何とか堪える。
二人で尾行しているからカップルの振り? いや、これが金桝と結翔ならそんなことはしないだろう。
男女だから? にしても、超絶美形で洗練された大人の見た目の金桝と、平々凡々な大学生の菜花では、カップルになど見えないだろう。
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