7.接近

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「よし、これでオッケー。ちょっと様子を見に来ただけなのにラッキー! 菜花、ありがとな!」 「……いいけど。そろそろ戻らないと、水無瀬さんに怪しまれるんじゃ?」 「それは大丈夫。今日はもう早退したから」 「え? なんで?」  水無瀬が早退など珍しい。  菜花が目を丸くしながら尋ねると、結翔からはこう返ってきた。 「デートだよ」 「デート? 誰と?」 「いやいや、そこは専務のご令嬢、純奈さんとに決まってるでしょ?」 「あ……そうか」  金桝と目撃したあの美女のことが頭にあったので、うっかりしていた。もちろん、あの件については結翔にも共有している。  それとは別に、水無瀬がよく使っているキャバクラ店のナンバーワンキャバ嬢の存在もある。  今現在、水無瀬には二人の女性との怪しい関係が浮かび上がっていた。 「会社を早退してデートなんて、あり?」  普通ならなさそうだが、相手はなにせ専務の娘だ。彼女にどうしてもと言われると、断りづらいだろう。 「ありでしょ。専務から直接言われてたし」 「専務さんが?」 「今日は純奈さんの誕生日なんだよ。で、早めの時間に専務夫妻も交えて食事して、その後は二人っきりのデート。明日は午後からの出社だってさ。よくやるよねー。夜は励みますよって宣伝してるようなもんだよね」 「う……」  菜花の頬が熱くなる。  もう大人なので、結翔が言わんとすることはわかるのだが、しれっと聞き流せるほど大人ではない。  そんな菜花を見て、結翔はニヤニヤと頬を緩め、揶揄うように顔を覗き込んでくる。 「相変わらずピュアだなー! でもいくら初心だからって、さすがに初めては済ませてるんでしょ?」 「結翔君!」 「あはははは! 冗談だってば。それじゃ、そろそろ退散しますか。じゃあね!」  結翔はそう言って、軽い足取りで書庫を出て行った。  その後ろ姿を眺めながら、菜花は大きな溜息をつく。 「結翔君、セクハラ。かねま……じゃなかった、惇さんに言いつけてやる!」  気を抜くとつい「金桝さん」と言ってしまいそうになる。なので、普段から「惇さん」と言うように心がけていた。  金桝はよほど自分の姓が気に入らないらしい。  菜花が「金桝さん」と呼ぶ度に指摘が入るし、しまいにはペナルティーをつけられそうになった。 「惇さんは惇さんで、いろいろ謎だよね……」  ふむ、としばし考え込むが、定時までに与えられた仕事を済ませてしまいたかったので、菜花はすぐに仕事を再開させるのだった。
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