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会社を出たのは、結局二十時少し前になった。
「すぐに報告したいけど、さすがにもう誰もいないだろうなぁ」
報告なら、メールやメッセージでもできる。しかし、菜花はできれば二人と顔を合わせたいと思った。直接話をして、金桝や結翔がどんな反応を見せるか知りたかったのだ。
ただの雑談とは思えなかった。気になる。とても大事な話を聞いてしまった気がする。
「電話……してみようかな」
菜花は駅に到着してから、結翔に電話してみる。
「……出ないし」
というか、そもそも呼び出し音も鳴らなかった。結翔はスマートフォンの電源を切っていたのだ。
「なんで切ってるのよ。それじゃ、かね……じゃなくて、惇さんに電話するしかないか」
金桝の番号も登録してある。呼び出せばすぐにコールできる。しかし、なかなかボタンをタップできない。
「なんか緊張するんだよね……」
「何に緊張するのかな?」
「金桝さんに電話……って! 金桝さんっ!?」
「はい、ペナルティー。あ、でもペナルティーの内容を決めてなかったっけ。うーん、何がいいかなぁ」
「いやいやいや、かね……惇さん! なんでこんなところにいるんですか!」
利用客の邪魔にならないよう改札の隅にいた菜花の目の前には、何故か金桝がいた。電話をかけようかどうしようか迷っていたので辺りに気を配っていなかったが、人が近づいてきているなんて全く気付かなかった。……怖い。
「気配消して近づかないでくださいっ!」
「ごめんごめん。そんなつもりはなかったんだけど、癖みたいなものかな。それより、僕に何か知らせることがあるんだろう?」
どうしてこんなところに金桝がいるのかわからないが、渡りに船とはこのことだ。菜花は遠慮なく便乗することにした。
「実は、ちょっと気になることを耳にしてまして……」
「了解。それじゃ、場所を移そうか」
「はい」
金桝が駅の外に向かって歩き出す。しかしすぐにこちらを振り返り、菜花が握りしめていたスマートフォンを指差す。
「お家に連絡」
「あ、そうですね。ちょっと待って……って、え?」
「はい、乗って」
計ったかのようなタイミングで、菜花と金桝の前に一台の車が止まった。
「え? え?」
このタイミングのよさはなに? しかも、スモークガラスで車内がよく見えない。怖い!
菜花が尻込みしていると、運転席の窓が下ろされ、そこから結翔が顔を出す。
「ほいほい乗らない慎重さはマル。でも、早く乗って」
「もうーっ! 結翔君、さっき電話したんだよ?」
「知ってる。電源切らなきゃいけない用があって、そのままになってた」
電源を切らなければならない用とは?
「ほらほら、早く乗らないと迷惑になるから」
金桝に背中を押され、菜花は首を傾げている途中で後部座席に押し込まれる。その後、すぐに金桝も乗り込んできて、金桝がドアを閉めた瞬間に結翔は車をスタートさせた。
菜花は体勢を整え、シートベルトを締める。そして、隣の金桝と運転している結翔を順に眺めた。
二人に会えたのはラッキーだが、あまりにもタイミングがよすぎて気持ち悪い。見張られているのかと疑ってしまいそうだ。
「あの……タイミングよすぎません?」
菜花が窺うように尋ねると、金桝は楽しそうに口角を上げ「僕、持ってる人だから」などと返してくる。しかし、菜花がその後も黙ったままじっと見つめていると、やがて金桝は肩を竦め、小さく両手を挙げた。
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