8.雑談か密談か

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「ああああああ!」  写真の中の女性を見た途端、菜花は大声をあげてしまう。  結翔がぎょっとした顔で後退り、金桝も目を丸くしていた。どうやら二人をかなり驚かせてしまったらしい。 「び、びっくりしたっ! いきなりデカイ声出すなよ! 心臓止まるかと思ったじゃん!」 「だ、だって……」 「まぁ、菜花君が大声出すのもわかるよ。だってこれ、僕たちが目撃した女性だもんね」 「はい……」  結翔が見せた写真の女性は、金桝と目撃したあの女性──水無瀬と一緒に歩いていた彼女だった。 「あー、やっぱりね」  金桝と菜花の反応に、結翔は納得したように頷く。 「やっぱりって?」 「水無瀬さんが女のマンションに入っていったって話を聞いた時、俺、ユリかもって言ったじゃん」  そういえば、と菜花は過去の記憶を遡る。  結翔は以前、仕事の接待でキャバクラに行った時に、そこのナンバーワンキャバ嬢・ユリと水無瀬との間に何かありそうだと感じ、密かにマークしていた。  水無瀬と一緒にいた女性のことを結翔にも共有した時、結翔はそのキャバ嬢ではないかと言ったのだ。  金桝は水無瀬と彼女の写真をこっそりと隠し撮りをしていた。だがそれを確認するなり、結翔は匙を投げた。ブレていたり、肝心の顔が写っていなかったりと散々だったのだ。 「惇さんがポンコツだから、俺が今日隠し撮りしてきたの!」 「そうだったんだ」  そう言えば、車には高性能カメラと望遠レンズが積まれてあった気がする。 「スマホで隠し撮りだとしても、あれはないわ、ほんっとない! 惇さんがちゃんと撮ってたら、この手間はなかったのに!」 「やぁやぁ、悪かったねぇ」 「悪いと思ってないでしょ!」 「だって、写真撮るの苦手なんだもん」 「いい大人が “もん” とか言うなーっ!」  じゃれ合っている二人を放置し、菜花は写真の一枚一枚をじっくりと観察する。  スラリとしたモデル体型、完璧にメイクされた美しい容貌、あの時の彼女で間違いない。あの時はワンピース姿だったので印象は違うが、こちらが仕事モードというわけか。  それにしても、と思う。  こうやってじっくりと眺めていると、彼女とはどこかで会ったような気がしてならない。もちろん、金桝と一緒だったあの時ではない。それ以外のどこかで。 「どうしたんだい? 菜花君」  金桝に声をかけられ、ハッと顔を上げた。いつの間にか、金桝も結翔も菜花を方を見ている。  菜花は苦笑いをしながら、小さく首を傾げた。 「この人、なんだか気になるんです。会ったことがある気がするんですけど、でも、こんなに綺麗な人なら絶対に忘れないだろうし、なんでかなって……」 「マジか!」 「どこ? いつ会ったの?」  二人がグイと迫ってきて、菜花は思わず椅子から飛びのき、しゃがみこんだ。  金桝の超絶美形顔はもちろんだが、結翔だってそれなりに整った顔立ちなのだ。イケメン二人にグイグイ来られると、迫力がありすぎて直視などできない。で、逃げた。 「菜花! なに逃げてんだよ!」 「だって、だって!」 「クラブ・アンジェのナンバーワンだよ? なんで菜花がユリを知ってんの? なんでっ?」 「だからーっ! 会ったことある気がするってだけで、知ってるわけじゃないってば! 会うって言っても、通りすがりに見かけただけかもしれないじゃんっ」  しゃがみこんだ菜花を無理やり立ち上がらせながら、結翔は更にグイと迫る。 「どこで会った?」 「うっ……だから、そんな気がしたってだけで、実際に会ったかどうかまでは……」  ここまで食いつかれるとは思っていなかったので、菜花はすでに涙目である。それを見兼ねて、金桝が助け船を出してきた。 「まぁまぁ結翔君、この辺で勘弁してあげよう」 「はぁーい」  不満そうではあるが、結翔は金桝の言うこと聞き、菜花を解放する。  金桝は菜花の頭を数回ポンポンと軽く叩くと、結翔の過剰反応の理由について説明し始めた。 「実はね、結翔君は、このユリって女性の素性も探ってくれているんだけど、どうも謎が多くてね。何せ仲のいい同僚もいないみたいだし、ママやオーナーも履歴書以上のことはわからないの一点張り。かなりガードの固い女性なんだよ。まぁ、彼らがユリを守って、必要以上のことは言わないよう口を噤んでいるのかもしれないけどね。でも、そうするのも無理はない。売上の三分の一以上が彼女の成果っていうんだからね。他所に取られるわけにはいかないし、とにかく大事にしている。真偽は定かじゃないけど、あの高級マンションもオーナーが彼女のために用意したって噂だしね。彼女は別格扱いなんだよ。そういうこともあって、結翔君がほんの少しの手がかりにもがっついちゃうのは仕方ないんだ。ごめんね」 「はぁ……」
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