11.驚愕のイコール

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「そうか」  金桝の冷静な声に、菜花は彼を見つめる。  もっと驚くかと思ったのに、金桝はあくまでも淡々とこの事実を受け入れていた。 「驚かないんですか……?」  おずおずと尋ねてみると、金桝は眉尻を下げながら、小さく微笑む。 「驚いていないことはないけど、菜花君や結翔君のような驚きはないかな。会社ではおとなしく地味な女性が、実は夜の仕事をしていた、なんて話はよくあることだ。それに、僕は高橋仁奈という女性をよく知らない。知らないからこそ、あぁそうかと、すぐに納得できるのかな」  そうかもしれない。  菜花も結翔も会社での仁奈を知っているし、菜花にいたっては彼女とランチをするほどの仲になっていたから、こんなことは想像もしていなかった。  クラブ・アンジェのナンバーワンキャバ嬢のユリは、高橋仁奈。  いや、確定ではない。ユリに確かめたわけでもないし、仁奈が認めたわけでもないのだから。  現状は、ユリの写真から素顔を想像したら、偶然高橋仁奈に似ていた、ということにすぎない。それでも、これはほぼ確定と思われた。  そこまで考え、菜花は大きく目を見開く。  ユリは水無瀬と関係があるようだった。ということは、仁奈と水無瀬は付き合っているのだろうか? 更には、横山と水無瀬の横領にも加担しているのか?  菜花がそれを口にしようとした時、一足先に結翔が口を開いた。 「信じられない。ユリが高橋さんなら、彼女は水無瀬さんと付き合っていることになる。そんなことは……考えられないんだよ」  結翔の言葉に、金桝が訝しげな顔をする。 「どういうことだい? 結翔君、説明してくれるかな」 「うん。さっきまで営業一課の先輩……水無瀬さんの一年上の先輩で、水無瀬さんが入ってくるまではトップにいたやり手の人がいるんだけど、その彼から、水無瀬さんの過去の話を聞いていたんだ」  結翔は、片倉から聞いた話の一部始終を話して聞かせた。  金桝は考え込む素振りを見せ、美沙央は眉を顰めながら首を傾げている。菜花は、何度も首を横に振った。  水無瀬は間接的にだが、仁奈の恋を台無しにした。それも、自分の欲望のために。これが仮に仁奈のためだったとしても、仁奈からしてみれば絶対に許せないことだったろう。結翔が「考えられない」と言った意味が、菜花にはよくわかった。  しかし、金桝からは菜花が考えもつかないような言葉が飛び出した。 「確かに不可解ではあるね。でも、ユリと水無瀬が男女の関係にあるとは限らない。一緒にいたから、イコール付き合っているとはならない」 「えっ!? でも、すごく仲よさそうにして、一緒にマンションに入っていったんですよ?」  歩いている姿を見た時から、あの二人は恋人同士だと思った。  菜花の意見に頷きながらも、金桝はこう返す。 「とすると、水無瀬もユリが高橋仁奈であることを承知で付き合っているということになる。それは、ありえることだろうか」 「それは……」  菜花が言葉に詰まると、結翔が口を挟んできた。 「水無瀬さんの性格からすると、それはありえない。ユリが高橋さんなら、二人が恋人関係にあるとは俺も思えないな。でも、二人は親密そうだった。……とすると、水無瀬さんは、ユリの正体を知らないのかもしれない」 「そんなことって、ある?」  あれほど親しげだったのに、正体を知らない? そんなことが本当にありえるのだろうか。
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