13.隠れた真相

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「……そんなことを聞かれるとは思わなかったわ」  しばしの沈黙の後、仁奈が口を開いた。  それなら、何を聞かれると思ったのだろう?  菜花の顔を見て、仁奈は後を続けた。 「ユリであることがバレているなら、水無瀬とのことも知られていると思ったわ。でも、好きかどうかなんて聞かれるとは思わなかった。杉原さん、あなたは例の件に私も関わっているのかどうか、知りたかったんじゃないの?」  例の件。仁奈は明言を避けた。これは、あえてだろう。 「横山さんと水無瀬さんがやっていたこと、知っていたんですか?」 「あなたは、そのことを調べていたのかしら? もしかして、営業一課の吉良さんも」 「……」  肯定も否定もできない。  仁奈はそれに頷き、菜花から視線を逸らした。 「言えないなら聞かないわ。その代わり、私も言わない。でも……あなたは例の件が何かを知っている。あの二人がいなくなってすぐ、派遣期間の満了が決まったんですもの」 「あの、それは……他の人も気付いて?」  仁奈は首を横に振る。 「まさか。どうしてあの二人が会社に来ないのか、ほとんどの社員は知らないもの」  わざとかうっかりか、仁奈はそう言った。これでは、知っていると言っているも同然だ。だが、菜花はそれには触れなかった。 「ユリさんは、関わっていたんですか?」  仁奈が再び目線を合わせてくる。そして、首を横に振った。だが、一言付け加える。 「直接的にはね」  では、間接的には関わっていたのだろうか。しかしそれを聞いても、仁奈は答えないだろう。  菜花は、最初の質問に戻す。 「水無瀬さんとは、過去にトラブルがありましたよね。それなのに、どうして……?」  眉を下げる菜花に、仁奈は優しく微笑んだ。そして、菜花の頬にそっと手を添える。 「高橋……さん?」 「泣きそうな顔をしてる。そんなことまで知っているとはね。……あなたは、まだ全然擦れてないのね。純真なまま。いつまでもそのままでいてほしいけれど、私の話を聞けば、それも難しくなるかもしれないわ。……どうする?」  菜花の顔を覗き込む仁奈に、菜花は視線で訴えた。  そんなものは決まっている。仁奈の話を聞く。そのために、ここまで来たのだ。  菜花の意思を汲み取り、仁奈は話し始める──。 「私は過去、恋人を失った。当時は相当落ち込んだわ。彼を私から奪ったのは、よりにもよって仲間だと思っていた同期だったしね。しばらくは、何もかもどうでもよくなった。あれほど気にしていた髪もメイクも服装も、本当にどうでもよくなった。いくら着飾っても、彼はもう戻ってこないんだから。毎日が無味乾燥だった。生きているのか死んでいるのかもわからない。今でこそ笑い話だけれど、あの頃の私は、本当に恋人が全てだったのよ」  仁奈の顔が、菜花の知っている彼女のものになる。そのことにホッとしながら、菜花は続きに耳を傾ける。 「そんな私を心配し、面倒を見てくれたのは、私の双子の妹だった」 「双子の妹!?」  驚愕である。そんな事実は、今初めて知った。  仁奈はクスリと笑みを漏らし、後を続ける。 「一卵性の双子。小さい頃からそっくりで、親でさえ見間違うほどだった。それは、今でも変わらないわ」  菜花の心臓が鼓動を速める。  一卵性の、そっくりな双子の妹。これはもしかして──。
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