13.隠れた真相

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「杉原さんが考えているとおりよ。実はね、クラブ・アンジェのユリは、本当は妹なの。私は、時々妹の代わりを務めていたにすぎないわ」  膝から崩れ落ちるかと思った。座っているのでそんなことはないのだが、気持ちはまさしくそうだ。  ユリは、。 「妹は、気分転換に入れ替わってみないかと私に持ち掛けてきたの。私たち、昔はよく入れ替わって悪戯をしていたのよ。親の離婚で離れ離れになっていたんだけど、大人になってまた会うようになって……。私たち、とても仲がよかったの。妹は憔悴していた私を見て、何とか元気づけようと思ったのね。私も自棄になっていたから、やってやれ、なんて。そうしたら、全然バレなくてね。逆に面白くなってしまって、それからは時々入れ替わるようになったの」  驚きのあまり、言葉が出てこない。頭も思考を止めてしまっている。  しかし、仁奈の話は先へと進んでいく。 「そんな時、水無瀬が店に来てね。焦ったわ。バレやしないかとヒヤヒヤしたけれど、何とか凌いだ。と同時に、水無瀬の過去に触れる機会があって……。私はひょんなことから、水無瀬が私にしたことを知ってしまったの」 「それは……」  菜花の声が震える。その事実を知った時、仁奈がどれほどのショックを受けたかと思うと、やりきれない。 「思わず笑いだしそうになったわね。そして、水無瀬を殴って詰って、めちゃくちゃにしてやりたくなった。恨んだわ。あいつがよけいなことをしたせいで、私は何よりも大切なものを失った。……この頃には、大林がロクでもない男だったってことは、もうわかっていたんだけどね」  それでも、恨まずにはいられなかったと仁奈は言った。悔しさの滲む声で。  恋人がいくらロクでもなかったからといって、それとこれとは別の話だ。ましてや、水無瀬は自分の欲のために二人の仲を引き裂くような真似をしたのだから。 「妹に打ち明けたら、彼女は烈火のごとく怒った。その時、水無瀬に復讐してやろうってことになったの。復讐といっても、大層なことは考えていなかったわ。彼に近付いて弱みを握ってやろうとか、惚れさせて散々貢がせてやろうとか、そういったこと。惚れさせるという点では上手くいったわね。水無瀬はすぐにユリに夢中になった。ユリがねだると、どんな高価なものも買い与えたわ。私たちは、そうやって彼の財産を食い潰してやろうと思っていた」  なるほど。それで、あの仲睦まじさだったのだ。  金桝と目撃したあの時、ユリは仁奈だったのだろうか。それとも、妹だったのだろうか。  好奇心を抑えられず、菜花はつい尋ねてしまった。 「あの……私、以前に水無瀬さんとユリさんが一緒に歩いているところを見たことがあるんです。ユリさんは白いワンピースを着ていて……」 「あぁ、それは妹ね。水無瀬にベタベタしてなかった?」 「あ……してました」  身体を寄せ合い、微笑み合っていた。あの雰囲気はまさに恋人同士。それを疑う余地はなかった。  仁奈はやれやれと肩を竦め、苦笑した。 「いくら演技とはいえ、私にはそんなことできないわ。笑顔を作るだけで精一杯。ユリはね、妹の中ではキャラ付けがされていて、ツンデレ設定だったの。妹が一人でやっていた時は、気分によって使い分けていたみたいだけど、私と入れ替わるようになってからは、私がツンで、妹がデレ担当。その落差は一人でやっていた時より当然大きくなって、奇しくもそれが人気に繋がったわ。水無瀬も、そんなユリに骨抜きになった。だから、専務の娘と婚約しても手を切れなかったのよ」  怖すぎる。本気で怒らせて怖いのは、断然女だ。女の敵は作るまい、と菜花は密かに決心する。 「水無瀬さんに……あのマンションを買わせたんですか?」  その答えはノーだった。 「いいえ。あそこは妹と二人で買ったの。ローンを組む時に私の方が有利だったから、名義は私になっているけど、妹と私のものよ。水無瀬は関係ない」 「え……。でも、水無瀬さんに貢がせてたんですよね?」 「少しの間だけね。水無瀬が専務の娘との結婚を企てるようになってからは、そちらにつぎ込んでたんじゃないかしら? 甘やかされ放題のお嬢様だったみたいだし」 「そうだったんですね……」  とすれば、ユリは横領に関係ないとみていいだろう。
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