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「それより、菜花ちゃん! お買い物はいつにする? 私、菜花ちゃんのためならいつでも身体空けるわよ!」
金桝と菜花の話が終わると、すぐさま空気を変えるように美沙央がハイテンションで菜花に話しかけてきた。それに少し圧されながらも、なんとか答える。
「それほど忙しくないので、いつでも大丈夫ですよ」
「卒論とかは?」
「もう大体終わってます。よほどのことがなければ、無事卒業できるかと」
「こっちの仕事をしながら、勉強の方もちゃんとやってたのね! えらーい!」
美沙央が菜花に抱きついてくる。酔っているのかと思いきや、そうではない。聞くところによると、美沙央はザルらしく、酒には相当強いらしい。
菜花と美沙央がはしゃいでいる向かいでは、金桝と結翔が小声でこそこそと話をしていた。
「菜花は単純だから、惇さんの話もそのままストレートに受け取ってるよね」
結翔の言葉に、金桝は微笑みながら冷酒の入ったグラスを傾けた。
「そうだね。でも、菜花君はそのままでいいと思うよ」
「まぁね。で、惇さん」
「なんだい?」
結翔が更にトーンを落とし、金桝に尋ねる。
「菜花は、水無瀬さんとユリが一緒のところを、偶然大林が目撃して写真を撮ったと思ってると思うけど、俺は別の可能性もあると思ってる。惇さんは?」
金桝はグラスの中身を飲み干し、僅かに口角を上げた。ペロリと舌を出して唇を舐める仕草が、妙に色っぽい。
「これ、美味しいな。もう一杯頼もう」
「惇さん」
ムッとしている結翔を見て、金桝は肩を竦める。金桝は菜花をチラリと見遣り、結翔の問いに答えた。
「僕も、結翔君の意見に一票入れさせてもらうよ。高橋仁奈か、その妹か、どちらかはわからないけど、大林に写真を撮られたのは、おそらくわざとだろうね。撮られたのではなく、撮らせた。大林の性格を知っているのは高橋仁奈の方だし、あるいは……」
「だろうなぁ、やっぱ」
結翔はそう呟き、残っていたビールを一気に飲み干す。
美沙央もきっと、そう思っているだろう。金桝と菜花の話を聞いた後、一瞬だが複雑な表情を見せた。そしてすぐに、菜花を構いだしたのだから。
菜花には気付かせたくない。その思いが、金桝や結翔にも強く伝わってきた。
「菜花君も、いずれこういったことに気付くようになるんだろうけど……今はまだいいよ」
「菜花は元々妹って立場だし、真っ直ぐすぎて危なっかしいから、守ってやらなきゃっていうキャラではあるんだけどさ。それにしても、怜史の他にも菜花を世話しまくる人間が二人も増えるとは思わなかったなぁ」
結翔は空になったグラスを置き、金桝と美沙央を交互に眺めながら呟く。すると、金桝がクックッと喉を鳴らした。肩も小刻みに震えている。
「なに笑ってんの?」
「だって、結翔君の言う二人って、僕と美沙央さんのことだろう?」
「当たり前じゃん」
金桝は結翔を指差し、ますます肩を激しく震わせた。
「なんで自分は数に入れてないんだか。自覚なさすぎ」
「はぁっ!?」
「あはははは!」
ついには笑い出してしまう金桝に、盛り上がっていた菜花と美沙央も、思わず注目する。
「あら、惇君ご機嫌ね。結翔君となにを話してたの?」
「実はさ……」
「言わなくていいーーーっ!」
「ぐぇっ」
結翔が金桝のシャツの襟を引っ張ったせいで、首が締まった。
「きゃははは! 変な声―っ!」
「みっ、美沙央さんっ! 笑ってる場合じゃないですっ! 結翔君、早く離してっ!」
「惇さん、言わない?」
「うぅっ……ぐるじぃ……」
「あはははははっ!」
「ちょっと、あの!」
そこから先は、ただの馬鹿騒ぎだ。ただ一人冷静な菜花だけが、涙目になりながら右往左往する羽目になり、最終的には打ち上げだかなんだかわからないことになった。
「もぉーーーっ!」
大声で叫んでみても、皆はゲラゲラと笑い続けている。金桝でさえもだ。
美男美女が座敷に転がり、笑い続けているシュールな状況。菜花はそれを眺めながら、冷静でいるのが馬鹿らしくなってきた。
「もういいや。これ、面白いから撮っとこ」
菜花はいそいそとスマートフォンを取り出し、笑い転げている三人の写真を撮り始めるのだった。
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