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病室のドアを開けると真っ先に「ありがとう」と声を掛けられた。
目の前には霞んだ目をした桜が力なく微笑んでいる。
「桜、起きたんだ。
眠そうだったのに、俺に気にせず寝てていいよ」
そう言うと、白い布団から、そっと手が出て来たと思うと俺に辿り着かずにそこで止まる。
「手、繋ぎたい」
もう、手を持ち上げる力もないのか?
「いいよ」
そう言って握った手は冷たく感じた。
握り返す事のない手。
そんな手を俺は優しく握ってもう1つの手を重ねる。
「大和、ありがとう」
「え?いいよ手くらいいくらでも握ってやる」
「私⋯⋯大和と神様から素敵なプレゼントを貰えて、とっても幸せだった」
「プレゼント?」
「かけがえのない時間、というプレゼント」
桜の丸い目に溜まった涙が白いシーツに流れていく。
「この数日間、大好きな大和と一緒に生きれて本当に幸せだったよ。
ずっと、叶えたかった……事……全部叶えてくれて……
こんな幸せな事、ないよ……」
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