156人が本棚に入れています
本棚に追加
病室の外は綺麗な秋空が広がっている。
そろそろ友達がお見舞いに来る頃ーー
と思っていたら、ちょうど廊下から聞きなれた声がして、すぐにドアが開いた。
「やっほー、桜ぁ来たよ」
「みんな、来てくれてありがとう」
特に仲良かった3人の女友達が入ってきて、寂しさで溢れていた病室が一気に明るくなった。
「検査入院って言ってたけど、結果どう?」
「んー、大したことなかったみたい。」
「そうなの?ほんとによかったー。超心配してたんだよ!」
そう言って抱きしめてくる親友の由美ちゃん。
「入院とかで忙しいのも分かるけど、一言くらい連絡欲しかったよ」
と莉子ちゃん。
「そうだよ~。急に連絡も取れなくなったら、誰だって心配するよ!」
と香織ちゃん。
「うん、ごめんね。……心配かけさせちゃって」
私は親友の由美ちゃんに抱きしめられながら、心配させてしまった事に肩を落としてしょんぼり項垂れる。
そんな私を見かねた親友の由美ちゃんは
「あー、もう!結果、大したことも無かったんだし、せっかくお見舞いに来たんだから楽しい話しよ!ね?」
とニッコリ笑って暗い雰囲気を変えようとしてくれているよう。
「あっ……そ、そうだよね!ごめんね、桜」
「ううん、私こそちゃんと連絡しなくって本当にごめん」
そう手を合わせてもう1度謝る。
すると一瞬ドアがガタっと鳴って、私の心臓は小さく跳ねた。
でも、ドアの磨りガラスに人影は無く、風が犯人だと知って淋しいようなホッとしたような気持ちになる。
「あ、今大和だと思ったでしょ?
大和は部活で少し遅れるから後でくると思うよ」
さすが親友。
今の一瞬だけで分かってしまうなんて。
「そーなんだ……」
「大和、桜の事すっごい心配してたよねー」
「そーそー!
昨日なんて、ずっとボーッとしてて体育の時なんてサッカーボールを顔面で受け止めてたしね」
「え、あの大和が?」
「そうなのよ、あれはビックリしたね!
超運動神経の良い大和君のあんな姿、なかなかのレアだよねー」
そして友達同士で顔を見合わせたと思うと、ニヤニヤとした顔がこちらを向く。
「ほんと大和と桜、いい加減くっつきなよー。誰が見ても両思いなんだからさっ」
背中を勢いよくバシバシと叩かれる。
「はは。もぅ!そんな訳ないって言ってるでしょ~」
いつも言われる言葉に、つい苦笑いを浮かべてしまう。
「あぁ~!なんで信じてくれないのぉ~絶対脈ありだって!というか、あれで脈ナシなんて有り得ないから!」
「大和とは小さい頃から一緒だし、そんなのあるわけないよ」
「じゃあなんで桜は好きなのよ」
「そっ……それは……大和は優しいし、かっこいいから……」
「桜、言ってる事矛盾してるって気付いてるの?
っていうか、ノンビリしてると誰かに取られて後から後悔するわよー。
あいつ、意外とモテるしね」
「へー、そうなんだ」
「そーよ。知らなかったの?」
「うん……」
平気なふりをして、頭の中では誰かに取られる様子を想像してしまい、胸が苦しくなった。
でも、今の私は何も出来ない。
勇気を出して動いた所で、優し過ぎる大和に迷惑がかかるのが目に見えているから。
結局あの後ーー
大和は病室に現れなかった。
最初のコメントを投稿しよう!