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少年は炭酸水の気泡を、一心に見つめていた。背筋を伸ばし、少し前傾姿勢となって、炭酸水の入ったペットボトルに顔を近づけていた。耳の上やえりあしを短く刈っている漆黒の髪を時々手でつまんで、いじっている。切れ長の目は、髪の色と同じくらい黒い瞳が輝いており、肌は色白だが、日に焼けているのか、鼻の頭が少し赤らんでいた。
ペットボトルの中で、底のほうに湧き出てきた泡が、水面に向かって浮かび上がっていく。それは瞬く間にパチンと弾け、液体と同化して消えていく。ひとつ、ふたつ、みっつ。絶え間なく現象は続いている。
少年の隣には、灰色の猫が丸くなって眠っていた。尻尾がだらりと地面に向かって垂れ下がり、時折ゆらゆらと揺れている。少年の左の手のひらが、優しく猫の背中を撫でている。
日曜日の昼下がり。部屋の中には、少年と猫しかいない。彼らが座っている木製の長椅子と、ペットボトルがのっている、同じく木製のテーブル、そして壁一面に並んでいる、たくさんの書物。それ以外には、何もない部屋だった。
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