八百万のキュリオシティー

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 ルクルが男子生徒に近づいた時、彼が泣いていることに気づいた。体育館から溢れてくる生徒たちの声や物音にかき消されそうな嗚咽が、彼から聞こえてきたのだ。声が出るのを、必死でこらえているようだった。  男子生徒の背後の扉が、遠慮がちに開く。そこから顔をひょっこりと覗かせたのは、彼の仲間と思わしき少年だった。 「おい、優吾」  名前を呼ばれたのだろう。うずくまっていた男子生徒の肩がピクリと動いた。彼が顔を上げる。真っ赤に充血した目が、ルクルの視線と合ったような気がした。もちろんそれはルクルの気のせいで、優吾からはルクルの姿は見えていない。 「ごめん、淳平。気を遣わせたな」  優吾は、無理に笑顔を作っているのが丸わかりだった。淳平と呼ばれた少年が、扉から出てきて、優吾の隣に座る。 「わかってるんだ。俺の実力じゃ、どうにもならねえってことは……。でもさ、なんであいつなんだって思っちゃってさ」  優吾は、ひとつひとつの単語を慎重に選んでいるような話し方をする。そうすることで彼は、自分の心の中を整理しているのだろうかと、ルクルは思った。
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