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「あの人間は、罪を犯しかけた。自分の弟に対する嫉妬だ。行き過ぎれば人を憎み、自らの心をも荒ませていく。行き場のない怒りに堕ちていき、人の道を外れてしまうこともある。だけどあいつは、その嫉妬を、自分を鼓舞する感情としてうまく昇華させた。心の強い人間だ」
ティアは前足で、地面をカリカリと擦った。鳥の囀りがきこえる。すべての人間がああならいいけれど、残念ながらそうじゃないと、ルクルへ諭すように、ティアは続けた。
「だから面白いんだ」
ルクルは扉から目を逸らし、ティアの胴体を抱き抱えると、自分の目線の高さに顔を持ってきた。「人間の数だけ、僕たちは色んなことを学べる。そうすればまたひとつ、全知全能に近づけるだろ」
屈託なく笑うルクルの顔をまじまじと見つめて、ティアは「おまえのその貪欲な好奇心が、神になるのにふさわしい理由なのかもしれねえな」と言った。だから父上は、おれよりもおまえを後継者に、選んだんだよ。
ティアが地面に下ろされる。その四本の足が地に着いたとき、二人の目の前に、扉が現れた。彼らの小屋に続く、例の扉だ。
「あれ? もう終わったの?」
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