八百万のキュリオシティー

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 猫は目を閉じたまま、ごろんと寝返りをうった。その弾みで、床に転落した。うぎゃあと大きな声が、猫の口から飛び出したものだから、ルクルはびくんとなって、空中に置いていた手のひらを引っ込めた。 「ティア、大丈夫?」  ルクルは自分の足元を覗き込むようにして、猫の様子を確認した。ティアはごろごろと喉を鳴らすと、「大丈夫だ」とぶっきらぼうに言い、再び椅子に飛び乗って丸くなってみせた。 「ルクル、おまえさっきから何やってんだよ」 「御偉人からの言伝を待ってる」  ルクルはそう言って、再び炭酸水を見つめはじめた。ティアは、興味が湧いたようで、「ほう」とつぶやくと、今度はテーブルの上に飛び乗った。その振動で、ペットボトルがぐらぐらと揺れる。もう、倒れちゃったらどうするんだよと、ルクルは少し語気を強めて言った。 「倒れてねえからいいじゃねえか」  屁理屈を言う兄の尻尾を掴む。そうすると、ティアの全身の毛が逆立ち、彼は「悪かった、悪かったよ!」と慌てて謝った。
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