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第八話 シュークリーム消失事件
コンビニで買ってきたシュークリーム。プレミアムなやつで、ふつうのより、ちょっとだけ高い。
美味しいよね。シュークリーム。香ばしい皮も、トロンとしたクリームも、バニラビーンズの香りも、生クリームもカスタードも、何もかも至福。
僕はそれを食後のデザートに食べようと、冷蔵庫のなかに入れた。
それが、まさか、あんな事件に発展するとは、このときは思いもしなかった(大げさ)……。
*
「ああッ! ない! 冷蔵庫に入れといた僕のシュークリームがないィー!」
冷蔵庫をのぞいた僕は、思わず大声を発してしまった。楽しみにとっといたシュークリームがどこにもない。
ノー! そんなバカな。あれは一個百九十八円もするんだぞ。ふつうのシュークリームが二つも買えるんだー!
容疑者A(猛)登場。ちなみに兄だ。
「どうしたんだ? かーくん。スゴイ悲壮な顔して」
「どうしたんだじゃないよ! 兄ちゃん、僕のシュークリーム食っただろ?」
「食ってないよ」
平然と容疑者Aは反駁する。
「そんなわけない。猛しか勝手に僕のおやつ食うやつなんていないよ」
うちには容疑者Aのほか、容疑者B(蘭さん)しか住んでない。蘭さんは猛と同い年の友達だ。わけあって同居中。
ところがだ。容疑者Aは僕を言い負かしに来た。
「かーくん。兄ちゃん、甘いもの好きじゃないだろ?」
「う、うん……」
「兄ちゃんがお菓子とったことあるか?」
「あるけど、煎餅かスナック菓子か、アイスだね」
「だろ? シュークリームは兄ちゃんの好物じゃない」
「うん。まあ……じゃあ、兄ちゃんじゃないのか」
この時点で『とる』という証明はされてるのだが、今回のシュークリームに関しては違う気がする。
容疑者B(蘭さん)登場。
今日も麗しい、わが家の同居人。絶世の美女みたいだけど、残念ながら男だ。
「あれ? 何をさわいでるんですか? かーくん。猛さん」
僕は容疑者Bをうかがった。シャワー浴びたてみたいに爽やかに笑ってるが、油断できない。容疑者Bはなかなか狡猾だ。
「……蘭さんだね? 蘭さんがやったんだね?」
「えっ? 何?」
「疑いたくないけど、猛じゃないなら、蘭さんしかいないんだよ。蘭さん、僕のシュークリーム食べた?」
「食べてません」
「蘭さん。ほんとのこと言って!」
「食べてませんよ」
「ええーっ!」
うーん。そんなわけない。
すると、口をはさんだのは容疑者Aだ。自分の容疑が晴れたからって、探偵に口出ししてくるとは、なんて図々しいんだ。自分の本職が私立探偵だからってさ。
「ちょっと、待てよ。かーくん。蘭が冷蔵庫のなかのシュークリームを食べるはずがない」
「えっ? どうして?」
「考えてもみろ。蘭は食べ物に関して高級嗜好だ。おまけに嗅覚が敏感だろ。冷蔵庫のなかの匂いがしみついたようなお菓子を食べると思えない。食いたいときには、おまえかおれに小遣い渡して買ってこさせるはずだ」
むむ。さすが、本職だけはあるな。説得力がハンパない。
ちなみにいつもの僕は探偵助手。やっぱり、探偵と助手の能力差は歴然としてる。
「なるほど……でも、じゃあ、シュークリームはいったい、どこへ? このうちのなかには、僕と猛と蘭さんしかいないよ。ミャーコは襖はあけても冷蔵庫のドアはあけられないし……」
変だ。容疑者は二人しかいないのに、AもBも無罪。
ということは、何か?
僕が食べて忘れてしまったのか?
いや、まさか。ふつうのシュークリームならともかく、プレミアムなシューだぞ?
買い物から帰ってきたあと、今までずっと楽しみにシュークリームの妄想をしてたのに、ウッカリ食べたことを忘れるなんて、そんなのあるとしたら、僕の記憶が数時間ぶん盗まれてしまったとしか考えられない!
ありえない。やっぱり、犯人は僕でもない。
だとしたら、ミャーコ?
これまで、数々の事件でミャーコは犯人、または犯人の共謀者だった。今回もなのか?
いつのまにか、襖ばかりか、冷蔵庫のかたいドアまであけられるようになったのか?
あの肉球のついた、ぷにぷにの可愛い手で?
何かがおかしい。
僕はここで事件をもう一度、最初から整理してみることにした。
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