第九話 ロシアンおむすび事件

1/3
前へ
/34ページ
次へ

第九話 ロシアンおむすび事件

 京都五条にある東堂家。  今日も今日とて、またまた事件勃発!  その名もロシアンおむすび事件。あるいは、消えたイチゴむすび事件——  例のとおり、メンバーは僕、兄の猛。同居人の蘭さん。しょっちゅう遊びに来る友人の三村くんの四人。  時刻は昼前。 「おーい、みんな。昼ごはんできたよ〜」 「おっ、なんだ、なんだ?」 「おはようございま〜す」 「飯や、飯」 「は〜い。おうちでロシアンおむすびだよ〜」  大皿を両手に一つずつ持って、ドンとコタツ板に置く僕。  みんなの目が皿に集中。  ふふふ。おどろいてるな。 「…………」 「…………」 「…………」  やがて、ゆっくりと口をひらいた。 「大量のにぎり飯」と、猛。 「ロシアンってことは?」  これは蘭さんだ。  そして最後に三村くん。 「中身がわからんのやな」 「うん! それだけじゃないよ」  僕はもう楽しくてしょうがない。へへへ。これから起こる惨劇が目に浮かぶ。  猛、蘭さん、三村くんの順でつぶやく三人。 「なんだ?」 「イヤな予感がします」 「イヤな予感しかせぇへんな」  僕は三人にむかって宣言した。 「おむすびの具に一個ずつ大当たりと、大ハズレがあるんだ」  猛がたずねてくる。 「大当たりって?」 「和牛の残りをそぼろ状に炒めてみた!」 「大当たりだな!」 「大当たりだよ〜」  しかし、慎重派の蘭さんは上目遣いにうかがってくる。 「……ハズレは?」 「イチゴジャムが入ってる!」  あっ、また三人が沈黙。 「…………」 「…………」 「…………」 「かーくん。怖いもの知らずだな」 「えへへ。スゴイでしょ」  そもそも、なんでロシアンおむすびなんて考えたかというと、数日前にさかのぼる。  僕らは休日を利用して、伏見稲荷へ遊びに行った。今は亡きじいちゃんとの思い出の場所だからね。千本鳥居もいいけど、お山をグルッとのぼってね。京都市内を一望できる四辻で、じいちゃんのにぎってくれたデッカいおむすびを頬ばるのが楽しみだった。  それをやってみたわけだ。事前に好きなおむすびの具をそれぞれに聞いたんだけど。兄ちゃんは鷄そぼろ(肉)。蘭さんは焼きたらこ。三村くんは梅だ。 「やっと着いた。四つ辻。きれいだねぇ。お待ちかねのおむすびだよ。はい、これ、兄ちゃんね」 「おお」 「これが蘭さん」 「うん」 「はい。三村くん」 「よっしゃー」  声をそろえる僕ら。 「いっただきま〜す」  が、まもなく、 「んっ? か、かーくん!」 「何?」 「これ、鶏そぼろじゃないぞ」 「だろうね」 「だろうねって……」 「どれがどの具かわからなくなった」 「…………」 「…………」 「…………」 「えへへ。ドンマイ」  しかし、すぐに気をとりなおす兄。 「おれの具、ツナマヨだ。まあ、ツナマヨも好きだから、いいけどな」 「僕、オカカですね。昆布オカカっぽい」 「あっ、おれ好物やったで。ラッキー」  すると、猛が考えこんだ。 「ちょっと待てよ。かーくん。おれが鶏そぼろで、蘭が焼きタラコで、鮭児がシャケ(ほんとは梅)だろ? どっからツナマヨやオカカが出てきたんだ?」 「だって、うちにそれしか材料がなかったんだもん」 「そんなんアリか? 好きな具、聞いた意味ないじゃないか」 「そうだねぇ」  というようなことがあった。  これに僕は味をしめたわけだ。このときのドキドキ感を自宅で再現したい。  よって、ロシアンおむすびだ。  目の前には二十個のおむすび。どれに何が入ってるかは、僕にもすでにわからない。完全闇鍋!  さあ、誰が大ハズレをひきあてるのか?
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加