第九話 ロシアンおむすび事件

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「じゃあ、さっそく食べようよ。そのかわり、一回、手にとったのは必ず完食ね」 「よし。和牛は兄ちゃんのものだ」 「おれも負けへんで」  能天気な僕らと違い、何やら真剣な表情の蘭さん一人。二人も三人もいるわけないけど、蘭さん一人。  ここからしばらく、蘭さん視点だ! (現時点でのおむすびの数は二十。僕らは四人。一人五つの計算か。かと言って、五つも食べる必要はない。僕は二つで充分。なんなら夜ご飯まで我慢して、今は一つでもいい。ということはイチゴジャムをとる確率は十分の一、または二十分の一! 勝負は最初が肝心だ!) 「いただきま〜す」 「いただきま〜す」 「もらうでぇ」 (ハッ! しまった。これで残りは十七個。八.五分の一、または十七分の一!) 「ああ、うまかった。高菜だったな。じゃあ、次!」  ペロリと一個めをたいらげた猛が言う。 (は、早いッ!) 「兄ちゃん、ちょっと落ちついて食べなよぉ。おむすびは逃げないよ?」 「にぎり飯は逃げないかもしれないが、和牛はとられる!」 「まあ、そうだけど。ああ、僕はオカカだぁ。並だな」 「おれは……シャケやな。シャケフレーク」  一個めの具を開示しあう、かーくんと鮭児(けいじ)(三村)。 「鮭児、引き強いなぁ」と、笑うのは猛。  かーくんが補足する。 「シャケは当たり。当たりはほかに鷄そぼろとツナマヨがある」 「並は?」 「オカカと高菜と塩昆布。数がいっぱいあるんだ」 「三個め。あっ! 鷄そぼろだ!」 (えっ? 三個? いつのまに?) 「よかったね。兄ちゃん。念願の肉。僕は二個め。ええっ? またオカカ?」 (は……速すぎる! 二口で一個のペース! 完全に出遅れた……)  あわてるうちにも次々と消えるおむすび。流れるがごとし! 「あれ? 蘭さん、食べないの?」  ふと気づいたように、かーくんがたずねた。三村と猛もおむすびに手を伸ばしながら、 「早よ食べんとなくなるで」 「そうだぞ。いらないのか? 四個め。ああ、塩昆布かぁ」 (か、確率が……確率……くすん……)  ポロリと涙がこぼれる蘭だった。 「あはは。なんで泣くんだよ。変なやつだなぁ」  ゴゴゴ……。  蘭のなかで何かが壊れる音。 「あなたのせいです!」 「ら、蘭が怒った!」  そのときだ。かーくんがこんな提案をしてきた。 「蘭さん、イチゴジャムが怖いんだね? わかったよ。じゃあ、僕が手にとったやつを半分に割って、片方を蘭さんにあげるよ」 「えっ? ほんと? いいの? かーくんが天使に見える」 「うん。そのかわり、ジャムが出ても半分こね」 「いりません!」 「ああっ、買収失敗!」 (買収……買収か。その手があった!)  キラーン。  蘭の目が光る。(あっ、視点人物には見えないはずだけど。まあいっか) 「猛さん。僕と手を組みましょう」 「えっ? どうするんだ?」 「僕のとったおむすびが和牛だったら、猛さんにあげます。そのかわり、イチゴジャムが出ても食べてください」 「いいよ」  猛、即決!
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