第十話 ミャーコには見えてる事件

3/3
前へ
/34ページ
次へ
 それから数日。  僕は毎日ビクビクだ。  また僕の部屋がさ。庭の近くなんだよね。毎朝、庭先でガサゴソと音がするたびに心臓がちぢみあがってしまう。  ミャーコは夜どおし、庭のパトロールするし、やっぱり、何かがそこにいるのか?  化け猫?  化け猫に対してさえ、縄張りをゆずらないミャーコ。さすがだ。猫の(かがみ)!  うちの平穏はミャーコに守ってもらうしかない。何しろ、見えてるのは、ミャーコだけだから。  僕は祈るような気持ちで日々をすごした。  ところがだ。そんなとき、ついに事件は起こった。  それは早朝のことだった。  と言っても朝の七時くらいか。昼から仕事の僕にとっては、まだ早い時間だ。  お布団のなかでぬくぬくしてたのにさ。  何やら妙な気配を感じて目がさめてしまった。 (ん? 今、なんか音がした?)  風の音じゃない。そういう生活音は聞きなれてしまって耳につかない。ふだん聞かない音だった。  ガサリ——  あっまただ。やっぱり、庭に何かいる。  ガサ、ガサガサ。  あれは木の枝の鳴る音か。風にしては一部だけ不自然に音がデカイ。  そ、それに……あれは? 足音? まさか、足音なんじゃ?  まちがいない。サクサクサクと庭土をふむ音が……。  ど、どうしよう。あの足音は二本足だ。化け猫じゃない。化け猫なら四本足だもんね。いや、二本で歩くから化け猫なのか?  もしかしたら、ほんとに泥棒なのかも? うちに狙われるようなお宝はないんだけど、古民家だから骨董品が置いてあるとでも勘違いしたのか?  僕は勇気をふるいおこして、ふすまをあけた。縁側に出る。  そこには、なんと! 窓にはりつく子どもの霊が! 「ギャーッ!」  僕の悲鳴が家じゅうに響きわたる。その瞬間に子どもの霊は消えた。バタバタと走ってくるのは、猛、蘭さん、三村くんだ。 「かーくん! どうしたんだ?」 「朝から何事ですか?」 「なんや、なんや」 「子どものオバケがそこにいたんだよ!」 「子ども? おれへんで?」 「でも、いたんだよ! 窓に張りついてた!」  と、そのときだ。ガラス戸のむこうに颯爽(さっそう)とミャーコ登場!  ミギャーッと縁の下あたりに突進。  ミャーコ、お願い、化け猫でも座敷童子でもいいから、退治してー! ん? 座敷童子は追っぱらっちゃダメなのか? 家に福をもたらすんだよな?  バタバタと床下で物音と叫び声が続く。  それを見て、猛が動いた。ガラス戸をあけて外へ出る。 「に、兄ちゃん。なんかいるの? 化け猫? それとも座敷童子? はたまた、ただのオバケ?」  オバケなのか、座敷童子なのか、そこは僕的には大きな違いだ。オバケなら追放だけど、座敷童子にはぜひ残って、うちを繁栄させてもらわないと。貧乏退散!  縁の下をのぞいた猛が、何かをつまみだす。 「化け猫でも座敷童子でもないよ。犯人は、こいつだ」  猫の子のように首ねっこをつかまれてるのは、子どもの霊……一番やなヤツだったな。ただのオバケか。  まるで僕の心を読んだように、猛が笑う。 「かーくん。よく見ろ。子どもだけど、霊じゃない。本物の子どもだ」 「えっ?」  すると、庭のあちこちから、ワアワア言いながら子どもの群れが立ちあがり、いっせいに門の外へ逃げていく。  猛につかまれた子どもだけが、逃げそびれて泣きだした。 「ごめんなさい。ごめんなさい。もうしません」  つまり、こういうことだ。  うちの外観がお化け屋敷っぽいと小学生たちのあいだで評判になり、代表でショウくんが忍びこんだところ、化け猫(ミャーコ)がいた、と。  それで、何度か偵察してたが、今日は学校前、勇士をつのって、みんなで化け猫退治にやってきた……。 「化け猫ひどくない? うちのミャーコはこんなに可愛いよ? 高価な長毛種(希望)とのセミロングのミックス(けっきょく雑種)だよ? てかさ。うち、空き家じゃないんだけど! いくら小学生でもね。こういうのは犯罪だよ? 家宅侵入罪って言って、警察に捕まるからね?」 「ごめんなさい。ごめんなさい!」 「とりあえず、学校には連絡させてもらうから」  学校名、学年、名前を聞いて解放した。きっと彼らは朝礼でコッテリしぼられることだろう。  それにしても、だ。 「でもさ。うちって門にかんぬきかけてるから、外から入れないはずだよね?」  外からのときは鍵をかける。けど、なかからは、かんぬきだけ。そのほうがかんたんだから。 「……」  僕は黙りこんでる猛を見た。じいっ。 「兄ちゃん。心あたりあるんじゃないの?」  そうですね、と蘭さんもあとをとる。 「毎朝一番に門をあけて、新聞をとりに行くのは猛さんですよね?」 「あっ? うん……」 「」 「うっ、うん……」  僕はハッとして叫んだ。 「嘘だ! この前も仕事行くとき、かんぬき外れてた!」 「僕が気づいて、あわててかけとくときもありますよ?」と、蘭さん。  じいっ。じいっ。  僕と蘭さんに見つめられ、蛇ににらまれたカエルのように動かない猛。 「兄ちゃんが犯人だね?」 「ある意味、そうですよね。猛さんがしっかり戸締まりしてれば、小学生が入りこむこともなかった」 「いや、その……」 「兄ちゃん、あやまって!」 「そうですよ。反省してください!」 「す、すまん。ほんと悪かった!」  こうして、東堂家のミャーコには見えてる事件は解決した。  よかった。うちには化け猫も子どものオバケもいなかった。座敷童子はいてくれてもよかったんだけど……。  このあと、猛は罰として、庭木の手入れを任されたのだった。おかげでスッキリ。  これでもう、うちがお化け屋敷とウワサされることもないだろう。  それにしても、うちの平和を守ってくれるミャーコ、尊い!  了
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加