第十一話 異世界から来たスライム事件

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 ちなみに、スライムとは?  それはゲームに出てくる架空の生物で、ゲル状の流動形モンスターだ。国民的有名ゲームのおかげで、目口がついた可愛いモンスターってイメージが定着してる。  それ以外では?  なんか昔、ガチャガチャで販売されたオモチャだったらしい。プラスチックの容器に入ったプルプル冷やっこい緑色の物体。  うーん。僕が見たのは一瞬だったから、よくわからなかったけど、少なくともドロドロしてはなかったような?  僕はとりあえず、ふすまをしめて、奥の戸口からベランダに出て洗濯物をとりこんだ。これ以上、夜気を吸ったら、乾かすのが大変だ。ほんとにもう。  そのあと、洗濯カゴを持って階段をかけおりる。 「兄ちゃん! スライムがいた!」  居間から猛、蘭さん、三村くんが顔を出す。 「やっぱ、スライムやったんか!」 「スライムがこの世に……僕、召喚したおぼえないんですけど」  三村くんのファンタジー頭に、蘭さんまで毒されてる。てか、僕もなのか?  すると、僕の持つ洗濯カゴをじっと見て、猛が言った。 「かーくん。洗濯物とりに行ったんだよな? なんで、蘭の部屋に入ったんだ?」  あっ、そうでした。ズルして近道したんだった。 「えっ、その、ごめん。外が暗かったから、蘭さんの部屋の明かりつけさせてもらおうと思って」 「それだけ?」 「あと、近道だから」  猛の追及はやまない。 「もしかして、ふだんからショートカットに使ってるんじゃないか?」 「そんな! 蘭さんの部屋だよ? 使うわけないじゃん」  いや、待てよ? この前、急に雨が降りだしてきたとき、急いでとりこむために、蘭さんの部屋から行ったかな? 「その顔はやったことあるな?」 「た、たまたまだよ! 雨が降ってきたから、あわててさ。いつもじゃないよ」  ふうんと言って、猛は考えこむ。 「犯人がわかったよ」 「えっ? 犯人?」 「蘭の部屋にスライムを召喚した犯人だ」 「ええー!」  誰? 蘭さんじゃないの? 「じゃあ、スライムの正体は? ほんとにスライムなの?」  アニメとかで見るより、だいぶ小さいスライムだなぁ。手乗りサイズだ。 「それも察しはついてるけど。今から、ミャーコに探してもらおう」 「ミャーコに?」  まあ、猛がそう言うなら、やってみようか。  僕は言われたとおり、ミャーコをだっこして二階へあがった。猛、猛にひっついた蘭さん、三村くんもついてくる。  蘭さんの部屋はさっきのまま、電気がつけっぱなしだ。  見た感じ、なんの怪しいとこもない。ふつうの室内。何者かの気配は、僕には探知できなかった。 「かーくん。なんもいーひんで?」 「さっきはいたんだよ」  猛が口をはさむ。 「かーくん。ミャーコに頼むんだ」 「うん」  ミャーコは何かを感じとったんだろうか?  僕が床におろすと、トコトコと歩きだし、カーテンのうしろに入りこんだ。  すると、まもなく、 「あっ! 出た!」 「わあっ、スライムおったんかー!」 「ん? でも、スライムっていうより、こ、これは……!」  明るい照明のもと、とびだしてきたを、僕は見た。  スライム——じゃなかった……。  蘭さんがつぶやく。 「カエルですね」  そう。それは、その種族にしては最大級(四センチ)のツルッとキレイな緑色のアマガエルだ。ミャーコに追いたてられて逃げ場を失ったのか、猛の足にピョンとすがりつく。すかさず、猛がつかまえた。  それを見て、僕は気づいた。 「ああー! 今朝、植木鉢の定位置からいなくなってたアマちゃんだー! このサイズ感、色。まちがいないね。いつもの子だ」 「そうだよ。カエルは足たたんでるときは、わりと小さいけど、伸ばすとけっこう長いんだよな。それが暗がりで伸縮したように見えたんだ。冷やっとするし、ぷにぷにしてゼリーっぽい感触だな」  アマちゃんの足、伸ばしながら言うなよぉ。かわいそうじゃないか。 「猛。早く逃がしてあげて」 「そうだな。これでもう部屋からスライムはいなくなった」  猛は片手でベランダに通じるガラス戸をあけて、アマちゃんを離してやった。ピョンピョンとあわててとんでいく、アマちゃん。よかった。元気そうだ。  背後から蘭さんの声がする。 「それはいいんですけど、誰なんですか? 僕の部屋にを召喚した人」  あっ、あれ? スライムはアマちゃんだったよね。アマちゃんはいつも鉢のとこに……蘭さんがガラス戸あけるときは、たぶん網戸しめたままだろうな。ってことは、網戸ごとあける人……ん? ま、まさか?  チロリと猛の目が僕を見る。  あっ、やっぱり?  猛にはもう真相が見えてるようだ。そして、この時点で、なんとなく、僕にもわかってた。  猛が嘆息する。 「それはもう、かーくんしかいないだろ? 洗濯物とりこむときに、蘭の部屋のガラス戸を全開にしたんだ。そのすきにチョロッと入りこんだんだな」  じいっ。じいっ。じいっ。  三人が僕を凝視する。  蘭さんの目が冷たい。 「ご、ごめんよ! もう二度と勝手に部屋に入らないから! 明日休みだし、朝から蘭さんの好きなホットケーキ焼く!」 「約束ですよ?」 「約束!」  こうして、東堂家の異世界から来たスライム事件は解決した。  犯人は僕。  た、たまには、こんなこともあるよぉ。てへへ……。  ほんと、ごめんね。蘭さん。  あと、蘭さんの本気の悲鳴が「にゃー」だということが発覚した。ある意味、印象深い事件であった。  了
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