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ちなみに、スライムとは?
それはゲームに出てくる架空の生物で、ゲル状の流動形モンスターだ。国民的有名ゲームのおかげで、目口がついた可愛いモンスターってイメージが定着してる。
それ以外では?
なんか昔、ガチャガチャで販売されたオモチャだったらしい。プラスチックの容器に入ったプルプル冷やっこい緑色の物体。
うーん。僕が見たのは一瞬だったから、よくわからなかったけど、少なくともドロドロしてはなかったような?
僕はとりあえず、ふすまをしめて、奥の戸口からベランダに出て洗濯物をとりこんだ。これ以上、夜気を吸ったら、乾かすのが大変だ。ほんとにもう。
そのあと、洗濯カゴを持って階段をかけおりる。
「兄ちゃん! スライムがいた!」
居間から猛、蘭さん、三村くんが顔を出す。
「やっぱ、スライムやったんか!」
「スライムがこの世に……僕、召喚したおぼえないんですけど」
三村くんのファンタジー頭に、蘭さんまで毒されてる。てか、僕もなのか?
すると、僕の持つ洗濯カゴをじっと見て、猛が言った。
「かーくん。洗濯物とりに行ったんだよな? なんで、蘭の部屋に入ったんだ?」
あっ、そうでした。ズルして近道したんだった。
「えっ、その、ごめん。外が暗かったから、蘭さんの部屋の明かりつけさせてもらおうと思って」
「それだけ?」
「あと、近道だから」
猛の追及はやまない。
「もしかして、ふだんからショートカットに使ってるんじゃないか?」
「そんな! 蘭さんの部屋だよ? 使うわけないじゃん」
いや、待てよ? この前、急に雨が降りだしてきたとき、急いでとりこむために、蘭さんの部屋から行ったかな?
「その顔はやったことあるな?」
「た、たまたまだよ! 雨が降ってきたから、あわててさ。いつもじゃないよ」
ふうんと言って、猛は考えこむ。
「犯人がわかったよ」
「えっ? 犯人?」
「蘭の部屋にスライムを召喚した犯人だ」
「ええー!」
誰? 蘭さんじゃないの?
「じゃあ、スライムの正体は? ほんとにスライムなの?」
アニメとかで見るより、だいぶ小さいスライムだなぁ。手乗りサイズだ。
「それも察しはついてるけど。今から、ミャーコに探してもらおう」
「ミャーコに?」
まあ、猛がそう言うなら、やってみようか。
僕は言われたとおり、ミャーコをだっこして二階へあがった。猛、猛にひっついた蘭さん、三村くんもついてくる。
蘭さんの部屋はさっきのまま、電気がつけっぱなしだ。
見た感じ、なんの怪しいとこもない。ふつうの室内。何者かの気配は、僕には探知できなかった。
「かーくん。なんもいーひんで?」
「さっきはいたんだよ」
猛が口をはさむ。
「かーくん。ミャーコに頼むんだ」
「うん」
ミャーコは何かを感じとったんだろうか?
僕が床におろすと、トコトコと歩きだし、カーテンのうしろに入りこんだ。
すると、まもなく、
「あっ! 出た!」
「わあっ、スライムおったんかー!」
「ん? でも、スライムっていうより、こ、これは……!」
明るい照明のもと、とびだしてきたそいつを、僕はしかと見た。
スライム——じゃなかった……。
蘭さんがつぶやく。
「カエルですね」
そう。それは、その種族にしては最大級(四センチ)のツルッとキレイな緑色のアマガエルだ。ミャーコに追いたてられて逃げ場を失ったのか、猛の足にピョンとすがりつく。すかさず、猛がつかまえた。
それを見て、僕は気づいた。
「ああー! 今朝、植木鉢の定位置からいなくなってたアマちゃんだー! このサイズ感、色。まちがいないね。いつもの子だ」
「そうだよ。カエルは足たたんでるときは、わりと小さいけど、伸ばすとけっこう長いんだよな。それが暗がりで伸縮したように見えたんだ。冷やっとするし、ぷにぷにしてゼリーっぽい感触だな」
アマちゃんの足、伸ばしながら言うなよぉ。かわいそうじゃないか。
「猛。早く逃がしてあげて」
「そうだな。これでもう部屋からスライムはいなくなった」
猛は片手でベランダに通じるガラス戸をあけて、アマちゃんを離してやった。ピョンピョンとあわててとんでいく、アマちゃん。よかった。元気そうだ。
背後から蘭さんの声がする。
「それはいいんですけど、誰なんですか? 僕の部屋にスライムを召喚した人」
あっ、あれ? スライムはアマちゃんだったよね。アマちゃんはいつも鉢のとこに……蘭さんがガラス戸あけるときは、たぶん網戸しめたままだろうな。ってことは、網戸ごとあける人……ん? ま、まさか?
チロリと猛の目が僕を見る。
あっ、やっぱり?
猛にはもう真相が見えてるようだ。そして、この時点で、なんとなく、僕にもわかってた。
猛が嘆息する。
「それはもう、かーくんしかいないだろ? 洗濯物とりこむときに、蘭の部屋のガラス戸を全開にしたんだ。そのすきにチョロッと入りこんだんだな」
じいっ。じいっ。じいっ。
三人が僕を凝視する。
蘭さんの目が冷たい。
「ご、ごめんよ! もう二度と勝手に部屋に入らないから! 明日休みだし、朝から蘭さんの好きなホットケーキ焼く!」
「約束ですよ?」
「約束!」
こうして、東堂家の異世界から来たスライム事件は解決した。
犯人は僕。
た、たまには、こんなこともあるよぉ。てへへ……。
ほんと、ごめんね。蘭さん。
あと、蘭さんの本気の悲鳴が「にゃー」だということが発覚した。ある意味、印象深い事件であった。
了
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