第4章 相愛の竜

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10.番(つがい)のくびき * 「私の唯一、私の最愛を! 半竜の(つがい)、ヘルムダールの小娘風情が。2度目を許した私の恩をあだで返すか」  狂乱した先の黄金竜(オーディ)が咆哮する。もうほとんど残っていないだろう力のすべてを振り絞り、パウラめがけて金の炎を投げつけた。それは予想外の速さで、しかもかなりの大きさで目の前に迫る。  瞬間、パウラはナナミ直伝のウケミをとった。くるりと身体を1回転させて炎を避ける。  詠唱はその間に完成させている。防御の結界を張った。 「私の唯一を害したおまえを許すことはできない。わが身が滅ぶなら、おまえだけを幸せにしてなるものか」  唯一を失った竜の理性は脆い。聞いてはいたけれど、実際に見ると怖気がくるほど凄絶だ。黄金竜の形相は、この世で一番美しいものから醜いもの、怖ろしいものへと変化していた。  赤く染まった目はぎらぎらと血走って、白かったはずの顔の皮膚はくすんだ銀色のうろこでびっしりと覆われている。  さらに呪いの言葉は続いた。 「そこな半竜、よくおぼえておくがよい。そなたが子を成すことはない。この女、そなたが唯一と決めたこの女との間には、けして子など実らせまい」    金色の炎は霧となって大気に溶ける。  黄金竜はその中心にあって、両手を高く上げて空を仰いだ。だんだんに彼の姿は金の炎と共に融けてゆく。足下から順に少しずつゆっくりと。 「どれほど望もうと無駄だ。けして実らぬ。我が恨み、ありがたく受けるがよい」  最後の呪いの言葉と共に、黄金竜の姿は綺麗に消えた。  後には金の微粒子が残り、それもやがて大気に融けてなくなった。   「唯一を失くした竜の狂乱、憐れなものだな」  セスランは重い溜息をつく。 「やつは己が伴侶が許されぬことをしていると知っていた。そしてそれをそのままにはできないことも。だからパウラに転生を許したらしい。自分ではどうしようもない。竜は己の伴侶を傷つけることはできぬから。パウラになんとかしてほしくて、2度目を許したんだろう」  パウラに竜后のすべてがわかるように、セスランにも先の黄金竜のすべてがわかるのだろう。見たく無い、知りたくもないことも含めてすべてが。 「望みどおりになったのでは?」 「竜族の長としては、そう思うべきなのだろうな。だが唯一を失った竜の狂乱は、長としてではなくただの雄としてのもの。憐れなことだ」  淡々と解説してくれているけど、呪いの意味、わかっているのだろうか。  パウラを妻にする限り、パウラとの間に子供はできないと呪ったんだけど。  子供なしでもパウラはかまわないし、もしできなくてもセスランへ向ける愛情が変わるわけでもない。けど呪いで、誰かの悪意でできなくされるのは嫌だ。 「セスランは……。聞いていたの? 子供を持てなくしてやるって、そう言われましたのよ?」  伺うように上目遣いで聞くと、ふっと息だけで笑われる。 「試してみるか? もっとも私は、今少しパウラを独占していたいと思うのだが」  翡翠の瞳が、危険な熱をはらんで艶めいていた。    腰をさらわれて、抱き寄せられる。  何か思うより先に、唇を塞がれていた。  憶えのある湿った温みが口内に侵し入り、パウラの舌を思うさま貪り吸い上げる。 「ふ……。ん……」  今ここでいきなりかと、問い返そうにも舌の自由を奪われて音にはならない。  息をするのがやっと。言葉にならない恥ずかしい声を漏らす自分に、パウラは真っ赤になるばかりだ。 「黄金竜の泉地(エル・アディ)へ戻る。私から離れるな」  息もできないほど抱きしめられているのに、離れられるはずもない。  言い返す暇さえない。一瞬後には、パウラはセスランの寝室にあった。  転移直後、パウラはすべての衣を取り払われていた。  もともと最高位の魔術師でもあるセスランだ。今や黄金竜(オーディ)となってその力は無限大で、パウラの衣をはぎ取るなど造作もない。  素肌に感じる空気が冷たくてふるりと身震いすると、すぐさま暖かい胸がパウラを抱き取った。  心地よい。このまま眠れるほどの体温が、パウラの思考を蕩けさせてくれる。  耳朶に頬にすべり落ちる唇も温かくて、触れるか触れぬかあえかな指の動きが、パウラの芯に少しづつ火をつけてゆく。 「あ……。んん……」  かみ殺してもかみ殺しても漏れてしまう声は、どうしようもなく恥ずかしい。それでも抑えられない。  指を噛んで、高い声をこらえた。 「傷がつく。嚙みつくのなら、こちらに」  差しだされたセスランの指は、既にパウラの秘所を巡った後で、ぬらりと濡れて光っていた。 「や……です。見せないで。恥ずかしい」 「私の唯一は、いつまでも初心な処女(おとめ)のような。淫らに乱れて応えるパウラは、美しく愛おしいというのに」  薄い唇が開いて、濡れた指を口にする。ねとりと舐めて微笑んだ。 「我が唯一の味は、極上の甘露だな」  パウラのおなかに当たる硬いものが、ひくひくと動く。  それが何か、2度目の今はわかる。  済ませるだけで精一杯だった初回より少しだけ余裕があるパウラは、その憶えのある硬いひくひく動くものに指を伸ばした。 「……っ!」  眉を寄せて耐えるセスランの様子に、「良い」のだと直感する。  そのまま先端の濡れた穴を親指でなぞり、残る指でかさの下部をゆっくりと撫でた。  ひらひらと柔らかいひげのようなものを感じて、なんだろうと視線を向ける。 「気持ち悪いか?」  怖々と、不安げな声が。  見上げると翡翠の瞳が、パウラをじっと見つめていた。  どうしてそんなことを聞くのだろう。  普段他人には見せない箇所だ。他人のそこがどうなっているのかなど、知りようもない。パウラ自身のそこだって、どうなっているのか詳しくは知らない。  けど見て気持ち良いものではないだろうぐらいは、なんとなくわかる。   「セスランは、わたくしを気持ち悪いとお思いなの?」 「そ……! そんなことっ。あるはずもない!」  バラの香りのする胸に、思い切り抱きしめられる。  それならば何がそんなに不安なのだろう。パウラも同じなのだとどうすればわかってもらえるのか。  セスランの胸をそっと押し返し、反り返ったオスを両手で包む。  そしてそうっとキスをした。 「……っ。……くっ」  ひらひらと揺れるひげが震える。  そのひげごと、唇を開いて飲み込んだ。濡れてぬるぬるとこぼれるセスランの欲を、幾度も幾度も舐めあげる。  セスランがパウラにしてくれたとおり、幾度も幾度も。  そっと唇でひげを挟んで、その先も丁寧に舐めるとそのひげがだんだんに芯を持つ。 「それは私が白虎の血を継ぐ証。太古の昔には、そのひげが棘になってメスの排卵を誘ったらしい。私には白虎の始祖が、先祖返りの加護をくださった」  つまり? 「死にかけた黄金竜の呪いより、始祖の加護の方が強い。私とパウラが望むなら、子は実る。だが少し痛い思いをさせることになる。だからしばらくは……、二人で過ごしたい」  嫌だと言われるのが怖いのか、翡翠の瞳にはまだ不安げな色が残っていた。 「気持ち悪いと……。怖ろしいと私を拒まないくれるだろうか」  返事の代わりに、もう一度パウラはセスランのオスを口に含む。  ねろねろと丁寧舐りあげて、さらに昂ってゆく芯を指で扱く。  びくびくと震えるオスが愛しくて、仕方ない。 「それ以上は……。もたぬ」  乱暴にオスを引き抜くと、セスランはパウラを組み敷いた。 「わが唯一は、存外意地が悪い。夫をいたぶった仕置き、しっかり受けてもらおう」  猛々しく反り返ったオスで、セスランはパウラを貫いた。  きんと背中に走る快感が深い。  もっと欲しくて、深くまで挿れてほしくて、誘うように腰が揺れる。 「奥まで、もっと奥まで挿れて、セスラン」 「どうなっても知らぬぞ。愛しいパウラ、我が最愛、けして私を棄ててくれるな」  激しい送出が延々と続く。  高められた快感が極限に達してパウラの頭が真っ白になった時。 「んん……っ!」  低い呻きを上げて、セスランも達した。  どくどくと白い温みがパウラの子袋に注がれて、薄い腹を膨らませる。    孕んでも良い。いや孕んでみせる。   「今ので子を授かりましたの?」  気怠い疲労のにじむ声でそう問えば、汗みずくになったセスランが笑って首を振る。 「痛くはなかったろう? まだ孕ませはしない」    甘いテノールと柔らかな唇が、パウラの唇に落とされる。 「言ったはずだ。愛しい唯一をまだ独り占めしていたい。忘れたか?」  今果てたばかりのオスが勃ち上がっている。  いや、さすがにすぐは無理なんだけどと怯むパウラの抵抗が無駄だったのは、言うまでもない。
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