夜風

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キスをしていると思い出す。 「一人でするけど」 「付き合う意味!」 「あっちも一人で」 「溜まってる時とか」 立ち上がる。 「大丈夫?」 「ごめん」 「どうしたの?」 「なんでも」 これまでと同じ感じだ。 付き合い初めは楽しくて。 でも求められたら、怖くなる。 「私なんかまずいことした?」 「いや、俺の方の問題だから」 「この間の電話?」 彼女はわりと勘がいい。 ごかましは効かない。 「知らない人とはいえ、  あんなこと言われるの普通嫌だよね。  ごめん」 「別に、それが嫌ってわけじゃない。  うまく言えないけど、  君のせいじゃない」 ただ。 しばらくはキスもできそうにない。 焦って取り繕おうとして。 「俺は君に手を出さないけど、  だからって好きじゃないわけじゃない。  ちゃんと愛してる」 別れた元カノたちにもしてきた言い訳だった。 でも彼女は。 「愛してる…?」 急に怪訝な顔をした。 「やめて」 「え?」 「好きとか言わないで」 「でも」 「私を愛さないと思うから、  一緒にいられたのに!」 彼女は彼女で、抱えているものがあった。 「待って、どうした?」 「来ないで!」 彼女は部屋を飛び出していった。
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