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 父が家を出ていったのは、ちょうど二年ほど前のこと。両親のあいだになにがあったのかは知らないが、そのあとすぐに父が再婚したことから考えるに、やっぱり父の浮気が原因だったであろうことは、私にも簡単に想像がついた。  両親の離婚にも父の浮気にも、正直、それほど動揺はしなかった。でも、父の再婚相手に連れ子がいたという事実には少なからずショックを受けた。実の娘をさし置いて、どこの馬の骨かも分からぬ女の連れ子を選んだという父の行動が許せなかった。  心の傷は癒えたとしても、その傷跡はなくならない。高校生にもなったいま、私はもはやその男を父とは思わず、ただの金づるとしか考えないようになっていた。幸か不幸か大手総合商社に勤める父は、父親としては最低な人間でも、好きに使える財布としては有能だった。  ふと、右肘にかけたショッピングバッグに目を向ける。高級感漂う純白の紙袋には「Chloe」の文字が煌々(こうこう)と輝いている。騙された腹いせに、この施設で一番高そうなブランドをわざと選んでやった。さすがに冗談のつもりだった。高校入学祝いとはいえ、何十万円もするクロエのスモールバッグを買ってもらえるだなんて思っていない。しかし、父はそれをなんの躊躇もなく涼しい顔で購入した。  父が無神経なだけでなく、冗談も通じない男だったということを、私はつくづく思い知らされた。だってそうでしょう! 普通、クロエなんて高校生に買い与えない。金銭感覚が致命的に狂っている。それとも、まさか娘との絆も金で買えると思っているのか。そうだとしたら、勘違いも甚だしい。  ──これじゃあ、まるで私がお金で買われているみたいじゃない!  買い物中、きらりを自由にさせていたことにも腹が立った。店内を走り回ったりするきらりを父はにこやかに眺めているだけ。結局、私が手を繋いで落ち着かせるしかなかったが、その様子をさらに嬉しそうに見つめる父にはもはや殺意すら感じたほどだ。  きらりに罪はないが、到底、妹だなんて思えない。娘同士を仲良くさせたいなどという父の浅はかな考えが見え透いて、ひどく不愉快だ。いまに至っても、なぜ父と義妹がメリーゴーランドを楽しむ姿を実の娘が眺めていなければならないのか。  ──ほんと、最悪の日。早く帰ってシャワーでも浴びたい。  私は今日という一日がすみやかに終わることを心の底から祈っていた。
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