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メリーゴーランドから帰ってきた途端、きらりがかき氷を食べたいと言いだした。随分と身勝手なやつだと思ったが、たかが六歳の少女にいちいち腹を立てるのも大人気ない。私は、しぶしぶ父ときらりとともに中庭エリアのテラス席へと向かった。
昼下がりのテラス席は家族連れやカップルで賑わっていて、空いている席を探すのも一苦労。結局、かき氷屋の近くの席はすべて埋まってしまっており、遠く離れた噴水近くの丸テーブルを確保するのがやっとだった。
席についた途端、父は休みもせずに私たちのかき氷を買いに去っていった。それはもう、まさに脱兎のごとく──。私の記憶では、父は土日も寝てばかりで、娘のために率先してなにかをするような男ではなかったはずだ。それなのに、今日の父は疲れなど一つも見せずに、新しい娘のために尽くしている。
──なによ、ずいぶんと大事にしてるのね。
もやもやとする私をよそに、目の前に座る少女はマイペースに花柄のリュックサックを開けようとしている。まったく、お姫様はいい気なものだ。
「はいこれ、おねえちゃんにおてがみ!」
きらりの声で我に返り、少女の手元に目を向ける。どうやら折り紙で作ったであろう小さな手紙。星やハートのシールがべたべたと貼ってあり、折り方もぐちゃぐちゃ。お世辞にも「欲しい」と思える代物ではない。
「あ……ありがと」
「どういたしまして!」
向日葵のように明るい笑顔。そのつぶらな瞳を見つめていると、自分ひとり、心が汚れているように感じて嫌になる。悪いのは父なのに。なぜ自分だけがこんな気持ちにならないといけないのか。そんなことを考えていると、なんだか無性に父に仕返しをしてやりたくなった。
そして私は……ふと、ある妙案を思いついた。
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