73人が本棚に入れています
本棚に追加
4
「ねえ、ふたりでこっそり観覧車乗らない?」
「かんらんしゃ?」
「あれだよ、あれ」と噴水の奥にそびえる真っ赤な観覧車を指さす。中心がぽっかりと空いたセンターレスの特大観覧車は名をサターンズ・リングというらしい。土星の輪っかという意味のその観覧車と同様に、父がぽかんと口を空けて呆然としている姿を想像するだけで、笑いがこみ上げてくる。
「のりたい!」
「乗っちゃおうよ、お父さんまだかかりそうだし」
遠くに見えるかき氷屋の行列。人数からして、まだ時間はかかるだろう。よし、いまがチャンスだ。父を思いっきり困らせてやる。行方不明になった娘たちを心配して、せいぜい慌てふためくといい。
「ね、行こ!」
「うん!」
私はにっこりと笑いかけ、きらりに手を差し伸べる。それから急いできらりにリュックサックを背負わせ、手を繋いだまま、足早に観覧車のほうへと歩いていった。
最初のコメントを投稿しよう!