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「ねえ、ふたりでこっそり観覧車乗らない?」 「かんらんしゃ?」 「あれだよ、あれ」と噴水の奥にそびえる真っ赤な観覧車を指さす。中心がぽっかりと空いたセンターレスの特大観覧車は名をサターンズ・リングというらしい。土星の輪っかという意味のその観覧車と同様に、父がぽかんと口を空けて呆然としている姿を想像するだけで、笑いがこみ上げてくる。 「のりたい!」 「乗っちゃおうよ、お父さんまだかかりそうだし」  遠くに見えるかき氷屋の行列。人数からして、まだ時間はかかるだろう。よし、いまがチャンスだ。父を思いっきり困らせてやる。行方不明になった娘たちを心配して、せいぜい慌てふためくといい。 「ね、行こ!」 「うん!」  私はにっこりと笑いかけ、きらりに手を差し伸べる。それから急いできらりにリュックサックを背負わせ、手を繋いだまま、足早に観覧車のほうへと歩いていった。
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