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観覧車を降りると、茹であがったばかりのタコのような顔をした父がかんかんに怒りながら待っていた。どうやら随分と探しまわったらしい。大声でさんざん喚き散らしてきたが、私はそんなことよりも両手に持つ溶けきったかき氷がなんとも情けなく見えて、内心では笑いを堪えるのに必死だった。
きらりは少し泣いていた。ちょっぴり悪いことをした。この子はなにも悪くない。悪いのはどう考えても私だというのに、きらりに対しても怒っているこの男は、やっぱりどうしようもないひとだ。
それからもしばらく間は父からの説教が続いたが、やがて疲れたのか怒るのをやめ、ようやく帰路に着くこととなった。
私は前を行く父に気づかれないよう、こっそりときらりに「ごめんね」を言う。まるで女の子同士の内緒話をするように。するときらりは大きな声で「だいじょうぶだよ!」と応えてくれた。
足を止め、振り返る父。私は慌ててなんでもない素振りを見せる。きらりも「えへへ」とはにかんでいる。父は不思議そうな顔を浮かべて、また前を向いて歩き出す。
──この子は強い子だ。きっとこの子なら大丈夫。
私はきらりに対して手を差し伸べる。きらりはその手をぎゅっと握り返してくれる。
私たちは似たもの同士。まだまだこれから、いろんなことがあるだろうけど困ったときはお互い様。まぁ、たまには会ってやってもいいかもしれない。
ふいに吹き込んできた涼しい風が優しく私の頬をすべる。アスファルトの焼ける匂いがした。どこかで風鈴の音が聴こえた気がした。
──もうすぐ夏がやってくる。
この街にも、そして私たち姉妹にも。
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