雨音の耳宿り

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
 明日の体育はプールだ。  先生が耳掃除をしてくるようにと言った。 「どしてプールだと耳掃除なんだろ?」 「どうしてかしらね」  母さんの膝枕は眠り薬でも染み込ませているのかしら、さっきまで元気だったのに目が液体みたいになる。 「あれ?」 「あ、やっぱり」  母さんが僕の耳から抜いた耳かきを自分の耳に入れて何か音を聴いている。 「雨音だ」  そう? でも眠いや。ああ、そういえば今日の下校中夕立があって、駄菓子屋さんで雨宿りさせて貰ったとき。 「軒先借りますね」  僕がそう言ったすぐ後に。 「耳借りますね」って空耳がした。  あれ。  空耳じゃなかったの。  ずっと弱く聴こえてたポツポツって音はうちの雨どいから垂れる滴の音じゃなかったんだ。 「お母さん優しい子が大好きよ」  母さんが直接耳を僕の耳にくっつけた。  眠いや、明日はプールだから母さんの耳を借りるといいよ。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!