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>LAST STAGE:……
【 >LAST STAGE:…… 】
「次で終わりだ!」
「じゃあ、僕は後方支援に回るよ」
「ああ、頼んだ」
トーナメントの最終決戦。今のところ計画通りだ。全面に『今回』の『主役』たる彼を押し出し、僕は後ろへ下がった。回復能力が主な、彼女といっしょに。
友人は、小心者の性格に似合わず攻撃力重視の能力なので、前方で彼と戦っている。最後まで僕たちと後方を担当したいと駄々を捏ねたが、小一時間程説得した結果、快く前方配置に落ち着いた。
「大丈夫かな」
「大丈夫だよ」
光を纏わり付かせ、能力を発現している彼女が呟いた。僕は特に何の感慨も無く返す。
彼女の能力は、強いて表すなら回復と強化だった。彼女から伸びる光が、仲間の肉体の周りを薄く覆っている。これで大概の傷は治るのだから、凄いと思う。
僕はその横で、黒いような、濃い紫のような渦を展開している。
触れた対象を飲み込むこの渦は、防御にも攻撃にも適していた。伸縮も可能で、たとえば、相手が繰り出す炎に似たエネルギーの塊とか、水染みた変形攻撃も飲み込むことが出来るし。彼に言わせれば 「ふざけている、悪魔か」 、友人に言わせれば 「えげつないチート」 だそうだ。知らないよ。敵の……ヤツの攻撃や市長が仕込んだ化け物を消しながら、内心思い出して毒付く。
メールの内容を信じるなら“あなたの本性”で“それはあなたの武器であり、盾です”な訳だから……ん?
不意に、僕は一つ気が付いてしまった。
僕の能力って、あの黒い染みに似てない?
ヤツのご丁寧な解説を記憶から引っ張り出す。
“ブラックホールの中心は黒いだろう? 光すらも吸い込んでいるからさ。あの黒いところを『シュヴァルツシルト面』て呼ぶんだけどね。その奥は特異点が在って、無限に空間を捻じ曲げるところが在るんだ”
“あの黒い染みは、前述通り『歪み』ってこと。小さなブラックホール染みた幾つもの歪みが、密集しているみたいなものなんだ”
「……」
尚、関連して一つの蓋然性にも思い至ってしまった。
“空間を歪めている時点で、不可能じゃない”
ヤツが、ループに関して言ったことだ。
「空間を歪める……ブラックホールのような……僕の内面の具現化……まさか、」
僕は、目前で出現させている渦を仰ぎ見た。僕のループは、なるべくしてなった、と言うことだろうか。
「冗談じゃないんだけど……」
「? 大丈夫?」
僕の小さな独り言に、彼女が反応した。僕は 「大丈夫」 と返事するので精一杯だった。
やっぱり、僕は勝つべきじゃなかった。『初回』に。
僕が物思いに耽りつつも粛々と己の役割をこなしていると、だいぶ勝負が付いて来た。……頃合いだった。
僕は前方、ヤツと彼、友人の間に渦を発生させる。各々の攻撃を受け止め飲み込んだ。
「おいっ、何を────」
「『中断』だよ」
実は『戦闘』には『中断』と言う選択肢が在る。あまり『戦闘』時に使用することが無いため、忘れがちになっているけど。ちなみにこの『中断』、仲間内なら誰でも良いんだよね。
「……もう良いんじゃない?」
僕はヤツへ目線を向ける。合図だった。作戦第二段階の。ヤツが俯いた……演技が芋じゃないことを祈るよ。
「────? どう言うことだ」
「……」
よし、食い付いた。僕は笑顔の下で、してやったりと考えていた。
僕はこの幾年何十箇月何千日で、学んだ。
人が好むのは、都合の良い事情だ、と。
虚構であろうと、幻想であろうと、上辺だけであろうと。まったくの嘘偽りで無い限り、人は自身の良いように解釈する生き物だった。
優勝すれば、黒い染みの向こうへ帰ることが出来ると、半信半疑ながら飛び付いたトーナメント参加者も。
僕があきらめて戦わなかったのを、勝手に崇敬する彼も。
あの、名君の厚い皮を被った市長も。
僕も。
だから、コレは必要な『茶番』なんだ。
全員生き残る上で、一番良いエンディングを、手に入れるために。
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