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【 >TUTORIAL 】
「大丈夫……?」
「あ……」
彼女に言われ、僕は我に返った。
「そうだ、連絡っ」
メール画面を仕舞って、通話アプリを起動しようとして──────
ズッ……
ガ
ッ
シ
ャ
ァ
ア
ア
ア
ン
!
廊下から、階段に向かって、人が。
人が、吹っ飛んで来た。
そうして、足音と呼ぶには随分な重低音が間髪無く、連続した。振動も来た。僅差無く僕と彼女が身を潜める防火扉が軋んだ。扉の嵌まっているコンクリートに罅が入り、爪が。
爪が、食い込んでいた。
「……」
「……」
あとは、無我夢中だった。
リンクを押したのも、偶然だ。僕は彼女を庇い、払い除けられ飛ばされて。
「……ぁ、」
「やめ────」
彼女に迫る化け物に、無様に転がったまま手を伸ばしたとき、もう片方の手が、タッチ画面に触れた、だけ。
僕は、偶然だった。
“チュートリアルへようこそ”
“我々は、あなたを歓迎致します”
“さぁ”
“選択してください”
“生きるか”
“死ぬか”
どうかしていたんだ。
でもあのときは、まともに考えられなくて。
どうにかして彼女を助けたかったから。
「生きる、に、決まってるだろ!」
彼女と化け物の間に入ろうと体の痛みも無視して走り出した。
“……。音声入力致しました”
“これより”
“チュートリアル、開始致します”
画面を確認した訳ではない。
『初回』の僕
は。
けれど『二回目』では見た文言はそんな風だった。『三回目』も。『四回目』以降は見なくなった。
もっとも、『三回目』は実際には、“『四回目』のとき”だった。
正真正銘の『三回目』のときは、僕はチュートリアルをやっていないから。
……ともかく。
僕はこのチュートリアルにアクセスして、“生きる”と選択し。
「……何だよ……」
力を手に入れた。同時に。
“説明を聞きますか?”
「えっ」
耳元で、や、頭の中で、声がした。
僕はここで自分の初期スキル、生体メーター各種、時限メーター……それと。
エンディングメーターを知る。
『四回目』以降説明はスキップして省いたけど。当時は助かったなぁ。
結果僕は辛くも勝利した。
血は出たけれども、同じく生き残っていた保険医曰く額を切ったのと打撲だった。『初回』で軽傷だったのは幸運だった。
まぁ、『二回目』も似たようなもので、『三回目』はまず戦っていないし、『四回目』はアクセス出来なかったんだけど。
彼女を救い、自分も満身創痍ながら生き延びた僕。
これからが“地獄の始まり”だった。
“チュートリアル、クリアおめでとうございます”
“経験値とボーナスポイントがXXXXp”
“成果によりメーターが推移致します”
“正規版ダウンロード開始”
“ダウンロード中……”
“正規版ダウンロード完了”
“おめでとうございます”
“レベルが2アップ。スキルがクラスチェンジします”
“トーナメントへの登録が完了致しました”
“ただ今よりトーナメントへの参加が可能です”
“トーナメント初戦へ、参加しますか?”
握っていた携帯に選択が表示された。
“する”
“しない”
『初回』の僕は、“しない”────すなわち“保留”を選んだ。
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