雨音の使者

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プラントは旧い型のマーキュリーをオーバーヒートさせぬよう騙し騙し走らせながら、マイアミ郊外のアレックス・ミラー病院を目指した。アレックス・ミラー病院では、雨音の使者事件の唯一の生存者であるメグ・ロペスが、依然として意識不明のまま生命維持装置に繋がれている。 時計を見るまでもなく、時刻はすでに深夜をすぎている。面会時間は終わっているし、そうでないにしても意識不明のメグ・ロペスへの面会など許可されようはずもない。それでもプラントはメグ・ロペスに会わねばならなかった。先ほどのハント刑事の言葉がどうしても気にかかっていた。メグ・ロペスは犯人を目撃したただひとりの人物である可能性が高い。いや、可能性が高いのではない。メグ・ロペスは犯人を目撃している。プラントはメグ・ロペスに会わねばならなかった。 アレックス・ミラー病院の地下駐車場にマーキュリーを停めた。マーキュリーから降り立ったプラントはすでにトレンチコートを脱いでいる。派手でもなければ地味でもなく、しかもどのような状況下でも周りに不快感や違和感を抱かせない絶妙な色柄の生地と仕立ての背広に身を包んでいる。これがプラントの仕事着なのであった。 プラントはマーキュリーを離れ、医療関係者専用の出入り口を使い、なに食わぬ顔で病院内に侵入した。 廊下を歩く間、プラントは何人かの当直看護士とすれ違った。しかし彼女たちはプラントを医師と勘違いしているらしく、誰ひとりとして特別な注意を払いもしなかった。プラントは医師専用のロッカー室を目ざとく見つけ出し、何ら躊躇う素振りも見せず、いかにも鮮やかに侵入を果たした。 プラントはロッカーの整然と並ぶ部屋の真ん中に立ち、咳払いをした。ロッカーをひとつひとつ確かめる。思った通りほとんどのロッカーには鍵が掛かっている。しかしながら、鍵を掛け忘れたのだろう詰めの甘い医師がひとりだけいた。 プラントはロッカーの名札に視線を走らせた。アイザック・ローゼンシュタインと読めた。プラントはローゼンシュタイン医師の白衣を失敬して背広の上に羽織った。サイズはぴったりであった。
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