雨音の使者

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ローゼンシュタイン医師に成り済ましたプラント探偵は、エレベーターではなく非常階段を使い、メグ・ロペスの病室がある六階を目指した。メグ・ロペスの集中治療室がどこにあるのか、それはあらかじめ把握してある。プラントはメグ・ロペスの父親であるロニー・ロペスから、メグの病室の前にわざわざ呼びつけられ、そして犯人の特定と逮捕を依頼されたのだ。金持ちというものは、誰も彼も現金さえ支払えばどんな非礼をしでかしても許されると勘違いをする。カネを持った連中は、貧乏人というものは現金さえ握らせればどこに呼びつけようともそれを決して拒みはしないと鷹を括っている。それは輸入自動車会社社長ロニー・ロペスもまた例外ではなかった。プラントは奥歯を噛み締め、灰色の瞳を激しい怒りで緑色に染めた。 プラント探偵は六階の非常扉を押して開け、廊下を真っ直ぐ歩いた。窓の外から聞こえる雨音が、いつしか激しさを増していた。 プラントは十五歳のあの頃から十六年もの間片時たりと忘れたことのない宇宙人の指令を、声に出さずただひたすら反芻していた。 邪悪な地球人は大宇宙の掟に従って排除せねばならぬ。メグ・ロペス。キューバ移民から成り上がりわずか一代にして莫大な財産を築き上げたロニー・ロペスの愛娘。邪悪な有色人種。そして雨音の使者の正体を目にしたのだろう唯一の地球人。あまりに危険すぎる。危険は排除せねばならぬ。 プラント探偵は――雨音の使者は、集中治療室へ向かう途中、医療器具置き場らしい部屋に侵入し、注射器と何やらよく分からぬ薬品を数種類ランダムに選んで盗み出した。ひとつひとつの薬品は無害でも、数種類を出鱈目に混ぜ合わせれば殺傷力の高い毒薬が出来上がる。
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