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「犯行があったのは今から二時間前だ」
影法師のハントが言った。
「そこで君に訊きたいんだがね」
影法師のハントはいったん言葉を区切り、プラントを真っ直ぐ見つめた。だがプラントにはハントの目の色は伺えない。何しろハントの顔は照明の影となって黒く塗り潰されているのだから。
「二時間前、君がどこで何をしていたのかが知りたい。それを聞かせてくれないか」
「ちょっと待ってくれ、ハント刑事」
プラントはため息を吐いた。
「まさか私を疑っているのか」
「不快に思ったのなら申し訳ない。だがこれも私の仕事なんだ。たとえ相手が兄弟だろうと友人だろうと、すべて等しく疑ってかからねばならない。何とも因果な仕事だよ」
「君の立場は分からんでもないが、まあそうだな。アリバイがあるのかと問われれば無いとしか答えようがない。二時間前、私は自分の探偵事務所にたった独りでいたのだからね。君も知ってくれているとは思うが、私は助手を雇わない主義だし、事務員もまた必要としていない。そうだよ、私は二時間前は独りだった。アリバイはない」
「君は普段から拳銃を持ち歩くのかね」
「探偵だからな。今も携帯している」
プラントは上着の前を開き、腰のベルトにぶら下がったスミス&ウェッソンの短銃身回転式拳銃M66コンバットマグナムを見せた。
「犯行に使われた凶器は被害者の体内から摘出された弾頭の旋状痕から判断した限りでは、すべてまったく同じ拳銃なんだ。357マグナムを発射出来るスミス&ウェッソンの回転式拳銃だ。恐らくは君が所持しているのと同じタイプの銃だよ」
「つまり、その、私が極めて怪しいと、君はそう言いたいのかね」
「疑問はひとつひとつクリアして行かねばならない。真犯人にたどり着くためには、君への尋問は避けて通るわけに行かない。何度も言うが、これも仕事なんだ。悪く思わないでくれ」
「正直を言えば、私は衝撃を受けている」
プラントは苦笑いを噛み殺しながら、顔を左右に振って見せた。
「君には犯行に至る動機がないわけだし、これは型通りの尋問なんだ。忘れてくれ、友よ」
「君はすぐに忘れちまうんだろうが、私はこれが生涯のトラウマとなりそうだ」
プラントはおどけた口調で言ってから短く笑った。ハントも笑った。だがその表情はやはり黒く塗り潰されたままだった。
ふたりは公園内を歩いて一周しながらとりとめのない話をした。野球やフットボールなんかの、特にどうということのない、極めて無難な話だった。
公園を回り終えてから、プラントはハントに別れを告げ、規制線の外側へと抜け出した。
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