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げんかく。
ゼンが名乗り、立ち去ったあとのこと。
看守たちは彼の足音が誰にも聞こえなくなってから、誰からともなく声を漏らす。
「ガーナン、彼奴どうしちまったんだ?」
「アーコックの嬢さんがやられて、イカれたか」
…それもそのはずである。彼は“何者とも話していなかった”。
檻として使われることの無い、拷問の晒し部屋に向かって語り掛けていたのみなのだ。それが果たして、記憶の中の知り合いなのか、何かの幻影なのか…看守に分かるはずはなかった。
「……しかし、ありゃあ何だ? まるで別人じゃねえか」
「あれは、あれさ。お姫様を助けに来た王子様ってヤツだろうよ」
「へっ、王子様ときたか。それならまだ判るがな。あんな悪魔がかね?」
「はは、あれが悪魔かいよ。ありゃ、大したタマだぜ。あのお姫様のために命を捨てる気でいるらしい優男だ」
「しかしなあ、それが判らねぇんだよな。いくらなんでも、若すぎるぜ。二十歳そこそこだろうに」
「だから、そこだよ。普通ならそんな若さで、こんな所まで来られるわけがない。何かあるんだろうよ。俺らには想像もつかねぇような、とんでもねぇ秘密がよ」
そのとき、不意に監獄の檻に通じる扉が開かれて、一同は慌てて口をつぐむ。
そこから現れたのは、マスクで覆えないような傷を持つ男看守長のロベックであった。
彼は無言のまま部屋に入ってくると、ベッドの上に腰を下ろした。
一同は無礼にならないよう檻の際へと寄り、頭を下げる。
ロベックはそれを咎めようとせず、ただ黙ったまま彼らを見つめていた。
やがて、おもむろに立ち上がって口を開く。
その口調には、普段のような荒々しさはなかった。
むしろ穏やかなほどだが、それはそれで不気味である。
看守長は一同の顔を順繰りに見渡したあと、静かに語り始めた。
いかにも重大な機密を打ち明けるかの如く。
「君達も知っている通り、現在瀕死の重傷によりジャスミン・アーコックは療養中である。然し、あの娘と同等の戦闘員がゼン・ガーナン、或いは院長のみになり、組織の戦闘がままならない。
よって、雑魚組織との戦闘は厳重な監視の下、囚人を戦闘に参加させることが案に上がっている。
アーコックは意識は在るものの、応答が難しい時間の方が長い。もしかすると、気を狂わせるやもしれん。
その時、二人の戦闘員のみになるのは痛手だ。
本日より、全員に戦闘訓練の日課を追加するとともに、選抜を行う。戦闘に優れた者は収監期間の短縮を宣言する」
そう宣言する看守長の表情は苦悩が混じっていた。宣言をした彼自身の本意に沿うものではなかったのだろう。
その表情を見て、担当の囚人に制するような仕草をしつつ神妙な顔をする。
何処かで、いるはずのない猫がYを忘れたぐるるるなぁん、と間抜けな鳴き声を響かせた。
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