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雨の夜と蝋燭の炎
気が遠くなるほどに、大雨が降り続いている。時折強い風が吹き付け、窓ガラスを雨水が叩き付ける。ガタガタとガラスが揺れる。
隙間風によって蝋燭の炎が揺れ、部屋全体の影が激しくぶれた。
そんな中、一人の紺色の髪の少年―ゼンが、ティーセットを鳴らしながら苦笑を浮かべ、黒髪の少女にティーカップを差し出した。
「ジャスミン、そんな顔をするなよ。停電は仕方ないだろ?」
「……だってさぁ…寒いじゃん…………」
「だからミルクティー淹れただろ〜…」
不貞腐れ、幼い子供のようなわがままな表情で少女―ジャスミンはゼンの脛をげしげしと蹴る。
苦い笑みを浮かべながら、ゼンはジャスミンの足の届かない場所まで離れた。
おんぼろで安い、電気もまともに通っていない宿だからか風で建物全体が軋む。電通も弱かったのか、町はまだ明るいもののこの建物は全体が停電していた。天井に雨漏りのシミが出来ている。壁と天井の間には黴すら生えている。
だが、それでも雨風を凌げるだけマシだと一晩限り此処で明かそうとしたのだ。
する、とジャスミンの足元に白い毛並みの狼が擦り寄る。
「――――ねえ、ハク?」
「なぁに、ジャスミン」
「抱き着いていい?」
「え?やだ。体温盗られそう」
白い狼―ハクは、抱き着かせない代わりに足元で寝転ぶ。足だけは暖めてやろうといった感じだろうか。ジャスミンが動けなくなったのを見て、ゼンが思わず笑う。
「……笑うな、ゼン」
「アハハ、だって……っ、面白…っくふ、」
苛立ちをぶつけようにも足元にはハクがいて動けず、ゼンはジャスミンからある程度離れている。互いに射程範囲内には入らないような所で落ち着いているため、いくら互いに苛立ちを抱えても手が出せない状態だった。
ジャスミンは座っている1人掛けソファの肘置きにドンッ、と拳をぶつけ、苛立ちを隠せずにいた。
「ジャスミン、そんなに怒んなって。もう22時を回ったぞ?明日も早いんだし、さっさと寝ちまおうぜ」
「……そうは言っても、ベッド1つしかないじゃん」
「お前が安いからってダブルベッドの部屋選んだんだろ?…ったく、お前が嫌なら俺はこっちで寝るから構わねーけどさ」
「…………」
「まだ文句あんの?」
ハクを退かし、ジャスミンはゼンの座る2人掛けソファに座る。
そして、ゼンのむにぃっと両頬を抓った。
続く
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