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真っ暗な部屋の中。
1人で布団にうずくまる。
家の中には誰もいない。文字通り、誰もいない。
1人うずくまる私がいるだけ。誰の声も、生活音も聞こえない。
人が居ればそれなりに賑やかなこの家には、今は誰もいない。
最後にいた一人は、つい先ほど出ていった。
だから今は、私1人。
引っ張り出してきた膝掛布団を丸めて抱え、さらに薄手の布団で体を覆い。
この世界から目を背けようとしている。
そんな私が、1人いるだけ。
耳を塞いで。目を閉じて。
痛みに耐えている。
万力で頭を絞められているような痛みを。
下腹部のあたりをねじられているような痛みを。
1人、静かに、耐えている。
ズキズキと、頭に釘を打たれている。脳が悲鳴を上げている。
グチグチと、内臓を握りつぶされている。腹が悲鳴を上げている。
私は1人、どうか、どうかと、耐えている。
外では雨が降り出している。
ボタボタという音が、徐々に徐々に大きくなっている。
ザーザーなんて、可愛い音じゃない。
その音は、1人の私を、追い立てるように、さらに激しくなる。
バチバチと出窓を叩く。窓を叩く。
一人の部屋に、雨音が、響き渡る。
激しいその音と主に、痛みも増していく。
ズキズキズキズキ―グチグチグチグチ―バンバンバンバン――――!!!
次第に、思考までも、覚束なくなってくる。
私の手には負えなくなってくる。私の頭なのに。私の事なのに。
私は、私が分からなくなってくる。
痛みを忘れようと、他の痛みを思い出す。
傷が残り続ける、あの痛みを。いまだに響く、あの痛みを。
脳裏にこびり付いているあの痛みを。
ジワリジワリと、蘇らせる。
こちらの痛みに集中しろと。頭は腹は気のせいだと。
―この痛みの方が、傷の方が、痛いだろうと。
ズキズキ―グチグチ―バンバン―
窓を叩く音が、記憶の音と重なり始める。
恐怖におびえる私。
私1人。
窓で仕切られた向こう側。
バンバンと叩く雨音―ドンドンと叩く拳。
見たくもないほどの掌。数えきれないほどの人の群れ。
ドンドンドンドン!!!!!!
その中に混ざる、誹謗中傷罵倒の数々。
突き刺す視線。
ズブリズブリと穴をあけていく。
それは、一度刺さればぬけることはない。
だってずっと、刺さっている。
ズキズキ―グチグチグチ―ドンドンドン
重なり、共鳴し、増え続けるその音。
私は1人で、立ち止まる。
見ないように。
聞こえないように。
感じないように。
雨音が響く真っ暗な部屋の中。
1人で布団にうずくまる。
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