疫病神

1/3
46人が本棚に入れています
本棚に追加
/55ページ

疫病神

 雪がチラつく中、香鈴達は朝早くに札幌を出発した。  道南にある松内町(まつないちょう)の実家までは、高速を通っても五、六時間かかる。  その間、車の中は静まり返っていた。  高速を降りてしばらくすると、松内町のカントリーサインが見えてきた。  十年前に香鈴が実家を出た時と比べ、町の景観は様変わりしている。  当時は、スーパーと小さな商店が点々とあるだけだった。  友人が札幌の短大に行くと言い出した時、香鈴も一緒に行くのを選んだ。  何か目的があったわけではない。  なんとなく田舎暮らしが嫌で、都会に憧れていた。  ただ、それだけだった。  短大を卒業したあと、そのまま札幌で就職したのが今の勤務先だ。  少しずつ住民の数も増えている松内町には、大型施設や立派な道の駅もできている。  今にも崩れそうな空き家は、一軒もない。  北海道に新幹線がやってくると、近くに駅ができたおかげもあり、町並みは賑やかさを増す一方だ。  香鈴は、窓の外に流れる景色を見つめていた。  賑やかな町並みが続く国道から一本横に入ると、辺りの景色は途端に寂しくなっていく。  道路脇に点々とある一軒家の間隔も次第に広がっていった。  この辺りは町の中と違って、まだ開発されていない。  緑豊かな景色が続く中、実家の美園(みその)家が見えてきた。  松内町でも端のほうにある実家は、雪景色の中でも立派な家屋に、広い庭が目立つ。 「麗奈(れな)」 「……お姉ちゃん」  出迎えたのは、香鈴より三つ下の妹、麗奈だ。  麗奈は大智と、この家で暮らしていた。
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!