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疫病神
雪がチラつく中、香鈴達は朝早くに札幌を出発した。
道南にある松内町の実家までは、高速を通っても五、六時間かかる。
その間、車の中は静まり返っていた。
高速を降りてしばらくすると、松内町のカントリーサインが見えてきた。
十年前に香鈴が実家を出た時と比べ、町の景観は様変わりしている。
当時は、スーパーと小さな商店が点々とあるだけだった。
友人が札幌の短大に行くと言い出した時、香鈴も一緒に行くのを選んだ。
何か目的があったわけではない。
なんとなく田舎暮らしが嫌で、都会に憧れていた。
ただ、それだけだった。
短大を卒業したあと、そのまま札幌で就職したのが今の勤務先だ。
少しずつ住民の数も増えている松内町には、大型施設や立派な道の駅もできている。
今にも崩れそうな空き家は、一軒もない。
北海道に新幹線がやってくると、近くに駅ができたおかげもあり、町並みは賑やかさを増す一方だ。
香鈴は、窓の外に流れる景色を見つめていた。
賑やかな町並みが続く国道から一本横に入ると、辺りの景色は途端に寂しくなっていく。
道路脇に点々とある一軒家の間隔も次第に広がっていった。
この辺りは町の中と違って、まだ開発されていない。
緑豊かな景色が続く中、実家の美園家が見えてきた。
松内町でも端のほうにある実家は、雪景色の中でも立派な家屋に、広い庭が目立つ。
「麗奈」
「……お姉ちゃん」
出迎えたのは、香鈴より三つ下の妹、麗奈だ。
麗奈は大智と、この家で暮らしていた。
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