疫病神

2/3
前へ
/55ページ
次へ
 広い仏間で、大智は真っ白な布団に寝かされている。  明日の葬儀には、会社関係者や友人、親戚一同が参列に来る。  今夜の通夜は、自宅で家族だけで過ごすのだ。 「大智……」    目を覚ますことのない弟に、香鈴の頬に涙が伝った。  なぜ、大智までもが死ななくてはならなかったのか? 「お姉ちゃんが帰ってくるたびに、誰かが死んでる」  隣に座った麗奈が、ボソリと呟いた。  それに、香鈴は何も言えなかった。  言えるわけがない。  実際、その通りだった。 「私、明日の準備があるから。お姉ちゃんは、ロウソクと線香が消えないように見てて」  麗奈は香鈴と目も合わせず、仏間から出ていった。  廊下を挟んだリビングで、麗奈は電話をしながら忙しそうにしている。 「疫病神(やくびょうがみ)、なのかな……私」  香鈴は、大智の枕元に置かれた小さな祭壇を見つめた。  線香の細い煙が、天井に向かって伸びては消えていく。 「そんなこと、あるわけないじゃないか。ただの……偶然だよ」    周平は、目に見えない不可思議なものは信じないほうだった。  しかし、これらを偶然とするには、あまりにも重なり過ぎている。  周平の顔には陰りがあった。  香鈴もまた、自分が帰省したあとに家族が相次いで亡くなるという事態に、いくら否定されても不安を隠せずにいた。  今、家族と呼べるのは、妹の麗奈だけだ。
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!

47人が本棚に入れています
本棚に追加